第7話 紺④
後日。
『ちょっと建宮さんっ。聞いていらっしゃるんですか。お宅から帰ってきてから、うちの一也が変になってしまったんですよ。何を言っても、ぼうっとして。時折、「建宮の母ちゃん、かぁ」って同じことを繰り返し呟いて! まさかとは思いますが、一也にいかがわしいことをしてはいないでしょうねっ?』
「じゃから、何度も言っておるじゃろう。何もしておらん」
『いいえ、信じられるものですか。おかげで、勉強にも身が入らず、塾の成績にも響いているんです。これはもう、あなたのせいですからね』
受話器から脳に直接響く金切り声に、紺は思わず顔をしかめた。もう一時間もこのやり取りがエンドレスで続いている。電話の相手である結城は、何度も何度も問いただしてくるのだ。紺としては、もういい加減うんざりしていた。
半ば無理やりの形で通話を打ち切り、受話器を固定電話機に戻す。まさか、長い年月を生きてきた妖怪である自分が、電話一つでこうも疲弊するとは。紺としては目眩を覚えるほどだった。
そこへ、真之が心配そうに彼女の顔を覗き込んでくる。
「あの、紺さん、大丈夫ですか?」
「ああ、すまんのう。心配をかけて」
真之に弱々しい微笑を見せ、紺は深々とため息を吐いた。
「……来月の保護者会、欠席したくなってきたのう」
母親というのも、色々と大変だ。そう嘆きたくなる紺であった。
(授業参観 了)
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