びんな

薄氷雪

びんな

 ある日、私にこんな依頼が届いた。ビンの中に閉じ込められてしまった彼女を助けてほしい、というものだ。

 初めて聞いたときには、まるで想像もつかなかった。人が入る程大きなビンなのか、それとも身体の一部を突っ込んでしまっただけなのか、……。

 依頼を受けた私は、指定された場所へと足を運んだ。


 ……私の予想はどちらも外れていた。無精髭を生やした怪しげな男は、小さなビンを私に見せてきた。そこには、ビンよりも小さな女性が入っていた。

 なぜ、こんなことに。目の前のものがあまりにも非現実であったため、私は思わず訊いてしまった。やつれた男は、掠れ気味の声で、彼女を助けられたら答えると返した。

(まあ、仕事だからやるしかないな)

 経緯がひどく気になったわたしは、早速仕事に取り掛かった。牛乳ビンより一回り太いそれの蓋を開けて、ゆっくりと傾けていく。真横にしたところで、女性は頭から出ようとした。

「なるほど。肩が突っかえてしまうのですね」

 女性は腕を最初に出してみたり、必死に這い出ようとしたりしたが、しかし、肩幅とビン口の大きさが圧倒的に違う。女性は蚊の鳴くような声で、いや、比喩ではなく本当に蚊の鳴くような高い声で、なにかを話し始めた。

「――――」

 彼女は必死になにかを伝えようとしたが、私には全く聞こえなかった。もしかしたら、彼女にも私の声は聞こえないのかもしれない。

(これだと、一生出すことは叶わないな)

 私は、このビンを安全に割る方法を提案した。すると、男は首を横に振った。

 なんでも、このビンはダイアモンドで出来ているらしい。現代の先端技術を駆使して作られた、この世で一つしかない贅沢品だというのだ。なぜそんな大層なものが、こんな田舎にあるのかは知らないが。

(他の方法を試すしかなさそうだ)

  一時間以上試行錯誤していると、男性がビンを手にした。中身が詰まって取り出せないときのように、ビンを逆さ向けて上下に振り始める。大丈夫なのか、と思ったが、やけになった今、合理的な方法にも思えてきた。

 ……どうやら、彼女は大丈夫じゃなかったようだ。小さい分脆くなっていた彼女の身体は、いとも容易く崩れた。

「ああっ」

 なにを考えたのか、「それ」がこぼれないよう、男はビンにしっかりと蓋をした。


 かくして、彼女はビンに、ビンは彼女になったのだ。

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びんな 薄氷雪 @usurahi_yuki

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