第113話 新作のお披露目はぶっつけ本番で
「状況を確認しつつ、臨機応変に対応していく! できますよね!」
威勢のいい返事が返ってくる。
「狙撃手は高所を確保、周囲の状況把握と敵の索敵をお願いします。我々は安全圏を確保しつつ北上、村人の保護、および敵の撃破に努めます」
私の指示で狙撃担当たちが散開する。
「やはり、敵はいると思うか」
駆け足の最中、モンドの問いに頷く。
「二階から見ましたが、いくら何でも火の回りが早すぎます。何らかの偶然が重なって発火することは自然界でもないわけではありませんが、複数個所に同時に発火するというのは人為的としか思えません」
「追っ手は撒ききれてなかったってわけか」
苦い顔をしながら、モンドが周囲の光景を見渡す。炎に周囲を焼かれる様は、私たちにとってもトラウマ級の光景だ。どうしても嫌な予感が膨張する。
だが、本当に夜盗の類だろうか。やり方が野盗や盗賊のそれではない気がする。確かに火は、混乱や恐怖を相手に与えるだろう。でも逃げられたらどうする? そこから足がつくかもしれない。特にこんな人数の少なそうな農村で盗賊行為を働くなら、可能な限り知られない方が合理的だ。犯行が知られない限り安全だし、知られても、日数が立っていれば逃げる時間は稼げるし証拠も消える。
それとも、他に理由があるのか。ファルサたちを襲ったのは、ただの夜盗じゃない。明らかな目的があったと考える方が自然だ。
火には、相手をあぶり出す効果がある。もしかしたら、敵の本来の用途はこちらかもしれない。少ない兵数を補う効果もある。火に私たちが注目している隙に本命を叩く、というような。
こうなると、索敵に時間をかけたくない。
「プラエさん、聞こえますか」
通信機に呼びかける。すぐに応答があった。
『どうしたの?』
「周囲の索敵に協力してほしいんです。アレ、使えますか?」
『アレ・・・ああ、うん。試験運用は何度か試してるから、使えないことはないけど』
「準備をお願いします。子機は私が持ったままなので」
『ぶっつけ本番ってわけね。でも、まだ修正点も多いから、機能の過信は禁物よ。わかってると思うけど』
「もちろんです。目視と併用します」
『一分で準備するわ』
通信が切れる。
「団長、アレって?」
「プラエさんとゲオーロ君が新しく開発した、索敵用魔道具です。まだ課題はありますが、この場所は使用条件を満たしていますので、試す価値はあります」
モンドとのやり取りの間に、プラエから再び通信が入った。
『アカリ、準備できたわ。そっちの用意は良い?』
しゃがみ込み、リュックからその魔道具の子機とメモを取り出す。黒く丸い球体が、配線むき出しの四角い台座に乗っている。占い師の水晶がIOT化したらこんな感じだろうか。水晶に魔力を流し込むと、台座の配線が淡く輝いた。
「お願いします」
『わかった。鳴らすわ』
同時、寺の鐘に似た、低く鈍い音が殷々と周囲に響き渡る。モンドたちは何事かと首を巡らせるが、私は子機から視線を離さない。
一拍置いて、子機の黒い球体が点滅し始めた。全体ではなく、一部分だけぽつぽつと瞬く。その瞬きの強さも強弱がある。点滅の回数はかなりあったが、注目するのは強い点滅だけ。強い点滅の数は三回あった。
球体の光度と輝いた順番、位置をメモし終えた私は、プラエ、ギース経由で狙撃手に指示を送る。
「私の位置から、十時の方向、距離はかなり近い。多分五十メートル前後」
『・・・発見! 団長から十時、二階建ての家屋付近で村人が追われている! 村人の後方に数名の敵確認、武装してるな、おそらく刀剣類』
成功だ。団員たちが驚いた顔で私を見ている。
以前のスライム戦で得た知識をもとに開発していた索敵魔道具『カンプース』『センタゲレ』が上手く作動してくれたようだ。
スライムは周囲の振動を感知して獲物を探していた。振動の種類や伝わり方、強弱で、獲物の種類や距離を測っていた。
そこでプラエたちは、まず音の反響や振動を調べ、特定の振動をピックアップする魔道具を開発した。今私が持っている子機『センタゲレ』がそれに当たる。球体の中心が自分の位置で、光る場所は反応があった方向、光の強弱は反応した物の数量や密度を示している。しかしこれでは、相手が動かなければ振動を検知し辛いし、反応で方向はわかっても距離が測りづらい。
ならばこっちから音を出して、その反響音、振動を感知するようにすればいいのではないかと追加で開発を進めたのが、プラエが館で鳴らした鐘形の魔道具『カンプース』だ。これなら、相手が動いていなくても音に触れれば反響するし、反響を感知する時間で距離を測れる。
現状の問題点はカンプースの音が届く範囲内であること。音が届かなければ話にならない。また、音として空間内に広がるので、入り組んだ場所では反響を捉えづらく、屋内では壁のせいで反響が乱反射して場所が特定できない。ゆえに、屋外、かつ、遮るものの少ない場所という条件でなければ使用しても正しい効果が期待できない。ドンバッハ村はその条件をほぼクリアしていたため、使うことが出来た。
カンプースが鳴らす音は現時点では鉄と魔道具のコアによく使われる数種類の鉱石に反応するよう調節してある。鉄は武具に使われている。刀剣類や鎧、盾だ。農具のクワや斧など鉄製の物はあるが、各家庭に備えられている数はそこまで多くはないだろうし、領主宅でもきちんと毎回納屋に収納していたから、反応は薄いと判断できた。感知する振動は遮蔽物があると反応が弱くなる。魔道具に関してはこの村にある可能性は低い。理由は単純で、必要性がないし、高価だからだ。なので、魔道具の反応があるということは、村の人間ではないと判断できる。
これらの条件が上手く当てはまり、敵の位置を割り出せたというわけだ。
「狙撃できますか?」
『厳しい。村人の丁度陰になる。村人に当てない保証ができない』
モンドに視線を送る。察した彼はすぐさまその方向に団員を分けて送りだす。五十メートルならこちらから走ればすぐだ。相手もこちらを視認し、数の不利を悟れば止まる。けん制も兼ねた反撃だ。先手を打たれた私たちの唯一の強みは、敵は私たちがいることを知らないという点だ。
「狙撃は後回し、索敵に戻ってください。次、同じく十時方向、距離は百メートル前後だと思う」
別の団員がすぐに答えた。
『確認しました。おそらく同じ敵対勢力と思われます。領主の館方向に向かっていると考えられます』
「館に戻ったテーバさん、ジュールさんたちに迎撃させてください。無理に追撃せず、籠城戦で私たちが戻るまで持ちこたえるように」
『了解』
「最後です。方向は一時方向、距離は少し離れて、三百メートル程」
しばらく沈黙が続き、内心焦れ始めたころに応答があった。
『見えたぞ! ありゃ、領主だ! 領主発見!』
おお、と沸き立つ。
『だが、まずい、こっちも追われてる。しかも、手負いの村人を抱えてやがる。追いつかれるのは時間の問題だ』
そこまでわかれば動くだけだ。その時間で間に合えば問題は解決する。
「敵の大まかな位置は判明した。狙撃手は村人や私たちのサポートを、その際も索敵は続けて、連携を密に。チャンスがあれば撃って。相手の生死は問わない」
『わかった』
「私たちは領主の救助へ」
モンドたちが頷いた。
センタゲレをリュックに放り込み、私たちは全速力で駆ける。
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