第549話 インチキ霊能師(3)降参

 扇子の札で吸い寄せられた霊は弱いものだっただろう。しかしそれはどんどんと集まり、一体化していく事で強くなっていったらしい。

 とうに扇子は壊れ、札を中心に、場ができ、実体化していっていた。

「悪く思うなよ」

 刀で斬りつけ、札を露出させると、それに突き立てる。

 それだけで、吸引効果が切れ、集まった霊がばらけ、それを片端から浄化して行った。

「ふうん。直。どうだ?」

 札を見た直は、

「アレとは違うねえ」

と言う。

 ヨルムンガンドの獄炎の札の事だ。

「別口か」

「まあ、しっかり調べないとねえ。札と扇子の出所を」

「だな」

 皆が沼田を見、沼田は視線を集めて落ち着かな気に狼狽えた。


 沼田は、流石に言い逃れができないと思ったのか、素直に取り調べに応じた。

 あれでも陰陽師の家系であるのは本当らしく、札は、実家に残る物を真似して書いたらしい。そして扇子も元は実家の倉にあったもので、手品に使うと言っていくつか職人に作らせ、その奥に札を貼り付けて使っていたそうだ。

 まず弱い霊を扇子に吸い込み、閉じ込めておく。そして相談の客が来たらそれらしく蓋を開けて霊を出し、霊が混乱しているうちにまた吸い込む。そして、霊が慣れてきたら、外で放して来る。

 この繰り返しだとか。

「まあ、ショーとしては上手かったわけだねえ」

 直は、アオの相手をしながら言った。小さくて軽いスーパーボールをくちばしでぐいぐいと押して、パスをしあうのがアオのお気に入りの遊びだ。

「押し入れ、あのまま時間が経っていたらどうしたんだろうな」

 転がって来たスーパーボールを軽くアオに転がして返してやりながら言った時、芦谷さんが近付いて来た。

「アオちゃん、おやつはどうですかぁ」

 取り出したのは、かっぱえびせんだ。

 アオは飛びついて、かっぱえびせんを齧り出した。

「美味いかあ、そうかあ」

「チッ」

 ガリガリと音を立てて、アオはおやつを堪能している。

 と、小牧さんがにこやかにやって来た。

「アオ、クッキーはいかがですか。フランス直輸入の一品ですよ」

「チチチッ!」

 アオは、すぐにそちらに乗り換える。

「小牧ィ」

「あはは」

 このやり取りも、もはや陰陽課名物だ。

「アオ、中々の小悪魔だな」

 悔しがる芦谷さんに笑いをこらえながら徳川さんが言う。

 まあ、たまにはこのくらい、平和な日があってもいいものだ。窓の外の良く晴れた秋晴れの空を見ながら、僕はそう思った。






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