第546話 仕事熱心な男(3)稼働中

 夜に出直して、工場の隅に張った結界の中で、在原さんと担当刑事との5人で待つ。静かなもので、外を通る車の音が聞こえるくらいだ。

 11時を過ぎた頃だろうか。不意に、気配が満ち、機械音が響いた。

 3人はビクッと体を緊張させる。 

「ああ、来たねえ」

「こっちも行くか」

 結界を解除すると、それは消えようとしたが、在原さんを見付けると、声を上げて寄って来た。

「工場長、すみません。時間までに必ず仕上げますから」

 下半身は無く上半身のみで、両手で床を這って、だ。

「ヒィッ!?」

 見上げられて、在原さんは腰を抜かして尻もちをついた。担当刑事2人は、硬直してはいるが、意地で立っているようだ。

中川泰英なかがわやすひでさんですね」

 言うと、彼は

「はい」

と返事をした。

「先月、何があったか、覚えていますか」

「ええっと、先月は納期が近いのにまだ仕上がってなくて。それで、残業と休日出勤を」

 あっさりと答える。

「タイムカードによると、休憩は取り、休みも出勤せず、残業は週に4時間となっていますが」

「そんなので片付きませんよ。それは表向きです。時間になるとタイムカードを押して、休日は押さずに仕事するんですよ。

 新人かな?早く慣れてね」

 疲れた顔で、笑う。

「そんなに忙しいんですか。大変ですね」

「仕方ないよ。他に仕事を探そうにも中々ないご時世だし、仕事があるだけましさ」

 在原さんは、後ろでガタガタ震えている。

「だから工場長。急いで間に合わせますから」

「あ……あ……」

「中川さん。あなたは先月、工場内で事故に遭って亡くなったんですよ」

「ええ?そんな。納期に間に合わないじゃないか」

 中川さんの関心は、どうしてもそこらしい。

「中川さん。もう、時間外労働はしなくていいねえ」

「いいのか?」

「はい。お疲れ様でした」

「そうかあ。間に合ったのか。良かった」

 中川さんは笑うと、キラキラと光って立ち昇るようにして消えて行った。同時に、機械音も止まる。

「逝ったな」

 嘆息して言うと、背後で、在原さんが泣き出した。

「親会社が言うんだ!断ったら他に仕事を回すって!仕事を切られたら倒産なんだぞ!?どうすれば良かったんだよ!俺だって、俺だって!」

 男泣きに泣く在原さんの声が、深夜の工場内に響き渡った。


 報告書を前に、嘆息する。

「親会社は知らんぷり、か」

「発注はしてもその先までは知らないって、そりゃあそうだけどねえ」

「この構造が変わらない限り、似たような事故は起こるかもしれないな」

「そこまで命がけで仕事をするのはねえ」

 僕と直はそう言って、頬杖をつく。

 そんな僕達に、徳川さんが言った。

「あはは。報告書、出してね」

「ああ、面倒臭い」

「あ、もう昼休み時間だねえ」

 向こうで、沢井さんが噴き出した。





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