第460話 裏切り(4)暴かれる
空野さんが気配を濃く重くしていき、皆、警戒をしながら距離を取る。
「どうして邪魔をするの」
「空野さん、殺すなんて反対ですよ。ちゃんと捜査して、逮捕させて、反省と後悔をしてもらわないと。殺したらこの人、被害者になるんですよ」
え、という感じで、数人がこちらを見る。
空野さんは、ふっと怒りを緩め、本郷さんを見た。
「それもそうね。納得できないわね」
「それで、物的証拠とか、ありますかねえ」
「あるわよ」
更に多くの人間が、ギョッと空野さんを見る。
「やり取りを録音したICレコーダーを、実家のドライフラワーの花瓶に入れておいたわ。その内役に立つかと録音しておいたの。殺されてしまうとは思わなかったけれど」
本郷さんは何かを叫びかけ、そして、力なく項垂れた。
「本郷……」
温水教官は、痛みをこらえるような顔でポツリと呟いた。
「うやむやになんてしないで。そうなったら、ここにいる全員を許さないから」
空野さんはゆっくりと皆の顔を目に焼き付けるように見て行き、スッと消えた。
空野さんの実家から隠してあったICレコーダーが回収され、警察は大騒ぎになった。癒着して情報を流していたのは本郷で、空野さんに偽証を依頼して温水教官のせいにした事が決定的になった。空野さんを殺したのは組員で、これは、組が勝手にした事らしい。
しかしこれで、温水教官の汚名は晴れた。
「戻って来いとか言われたんでしょう?」
聞くと、温水教官は、
「お前らの面倒は最後まで見る」
と答えた。
「ふうん。でもとりあえず、射撃の強化選手候補には戻ったんですよね」
「どうかな。警察の汚点に絡んでるしな。発砲も学生から拳銃を借りた事も、緊急事態という事で監察からのお咎めこそないが、そんなに単純な話じゃないさ」
淡々と答える温水教官は、以前と変わらないように見える。
「でも、教官。ちゃんと許したんですねえ。自分に罪をなすりつけたやつなのに」
直が言うと、温水教官は一応否定する。
「そんなんじゃない。警官としてだな、目の前で誰かを射殺しようとしていれば、止めるだろう?その、チッ」
プイとよそを向いて誤魔化した。
「ねえねえ、教官。たまには皆で飲みに行きましょうよ」
豊川が言うと、
「俺は、他人と必要以上に慣れ合う気もないし、仲間とかそんな……くそっ」
と温水教官は嘆息し、そんな温水教官をニヤニヤと見ていた迫田教官は、
「じゃあ、今日の放課後な」
とまとめてしまう。
「はあーい」
僕達が声を揃えて返事する中、温水教官は苦笑して、頭を掻いていた。
そんな僕達を、色んな噂を流していた人達が遠巻きに眺めている。
また新しい噂が流れるといい。今度はもっと明るい噂が。そう、温水教官が国際大会に出場するらしいとか。
「はあ。だんだん暑くなって来るなあ」
「もう初夏だねえ」
「お前ら、呑気な事言ってる暇はないぞ。色々世話になったしなあ」
「そうですね。礼として、みっちり鍛えて立派な警官にしてやらなければ」
迫田教官と温水教官がニヤニヤしながら言い、僕達は悲鳴を上げた。
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