第451話 仲間(1)同期と教官

 警察大学校。以前、霊能師として入った事はあったが、自分が在籍するとなると、また違って見える。

「とうとう来たなあ、直」

 御崎みさき れん。高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった、霊能師であり、新人警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。

「そうだねえ、怜。いよいよだねえ」

 町田まちだ なお、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、新人警察官でもある。

 僕達は今日からここで研修を受け、警察官としての第一歩を踏み出すのである。

「行こうか」

 僕と直は、構内に足を踏み入れた。


 警察学校とは違い、警察大学の新入生は、学校出たてが10人から15人と少なく、残りは昇任した現役警官である。

 今年の真新入生は僕達を入れて12人で、その内の2名が女性だったのだが、何とも個性的な同期生揃いだった。

 一番体格が大きくて目立つのが、倉阪文彦くらさかふみひこ。熊のようながっしりとした体で、雰囲気はお父さん。そして実際、学生結婚していて、女の子が1人いるらしい。

 インテリ然としたヒョロッとしたのが、城北真留しろきたまさる。プライドと出世欲の塊というのが丸わかりの男だ。

 話しやすいのが、富永和也とみながかずや。明るくて真面目そうで、ハキハキとしている。

 明るくて元気なアイドルみたいなのが、あおい つばさ。小柄で、いつもニコニコしている。

 やたらと鏡を覗き、髪に手をやるのは、及川颯哉おいかわそうや。どう見ても、ナルシストだろう。

 襟、ネクタイ、袖口。神経質に直してばかりいるのが、真白田忠ましらだただし。几帳面なのは間違いなさそうだ。

 女性二人に積極的に話しかけているのは、豊川雅美とよかわまさよし。背が高く、がっしりとした体格のイケメンというやつで、明るく飄々とした感じだ。

 ジッと黙って動かないのは、塚本厚志つかもとあつし。我が道を行くタイプだろうか。

 どこか色気のある方の女性が、相馬弥生そうまやよい。スタイルも良く、モデルか何かのようだ。

 もう片方の女性は、かけい 夏美なつみ。気のきつそうな感じで、背が180センチ程ある。そして豊川が声をかけるのに辟易したのか、

「恋人はいるから。かわいいOLだから」

と爆弾発言をしてのけた。

 これに、僕と直だ。

「御崎君と町田君が、今年の首席と次席の合格者らしいね」

 早速、城北が絡んで来た。

「え、まあ」

「フン!」

 うわ、やり難そう……。

「それよりもさあ、テレビに出てた霊能師だよね。えりなちゃんや美里様と、プライベートで会ったりできるの」

 豊川が親し気に肩を組んで来、皆が、押し隠そうとする者もいるが、それなりに興味のある顔を向けて来る。

「そういうのは、ちょっとねえ。

 それよりも、筧さんって空手のチャンピオンだってねえ」

 直がにこにことしながら誤魔化しに入る。

「まあね」

 かなり得意そうに筧が笑うと、及川が、

「ゴリラ女か。――いや、失礼」

と言って作り笑いを浮かべ、葵がクスクスと笑う。

「だめだよ、及川。男女差別だよ。

 ん?男女、でいいのかな」

「性的嗜好が同じ女なのであって、性同一性障害ではないんだから。そうですよね」

 富永が言って、軽く葵を睨む。

「はあい」

 葵は調子よく謝ったが、それで、変に筧が浮いてしまいそうだ。

「他人のプライベートに構う暇なんてないくらい、絞られるのかな。教官ってどんな人だろうな」

「鬼教官かねえ、教科書通りの」

 僕の振りに直が上手く乗り、話題は他へ流れて行った。

 ややあって、教官2名が現れ、僕達はピシッと直立して向かい合った。

 そんな僕達を見渡し、年嵩の方がニヤリとした。

「教官の迫田洋介さこたようすけだ」

 もう1人の柔らかな笑顔の方が言う。

「助教の温水ぬくみず はじめです。よろしく。相談事、質問は、迫田教官にね」

 迫田教官が、チッと舌打ちをした。

 僕は、この個性的なメンバーに、面倒臭い予感が早くもするのを感じていた。


 その男は、高い壁のある施設を出て、殊勝な顔付きで歩き出したが、それは数メートルで引き歪んだ。

「やっと、あいつに復讐できるぜ。待ってろよ、クソ刑事が」

 小声で吐き出されたその声を、拾う者は誰もいなかった。





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