第332話 ハレの日に(4)はじまり

 信成は涙目で僕と直を睨みつけていたが、動けないでいる頼成に、近寄って来た。

「行こう、頼成」

 僕はつかつかと2人に近寄って行った。

「怜?」

 直が戸惑ったような声を上げる。刀を出していないからな。

「なあ、頼成ぃ。

 来るなよ!」

 子供特有の金切り声を上げる信成に、頼成は小さい声で言った。

「僕だけごめん。いつも庇ってくれてごめん、信成。ごめん」

「頼成」

「聞いてるぞ。優しくて強い、カッコいい兄ちゃんなんだってな」

 信成は不安そうに僕を見、頼成を見た。

「パンは半分に割って、いつも大きい方をくれる。殴られそうになった時も庇ってくれる。いい兄ちゃんじゃないか」

「う……」

「だったら、言えるよな。成人おめでとうって。いい大人になってくれ。幸せになってくれって」

 信成は涙を堪えて唇を噛み締めながら唸った。

「大好きな頼成に、言えるよな」

 信成は唸っていたが、同じような顔で唸っている頼成を見ると、

「頼成。ごめんな。俺が悪かった。お前は、幸せに、なれ」

と言って、泣き出す。

「偉いな。流石は頼成の自慢する兄ちゃんだ」

 頭を撫でてやると、本格的に泣き出した。

「うわああん!」

「お兄ちゃん、ごめん、ごめんな。一緒に行けなくてごめんな」

「頼成ぃ」

 直は頼成を足止めする札を解き、2人はしばらく、抱き合って泣いていた。

「もう、逝くよ」

「信成」

「これからは助けてやれないけど、大丈夫だ。もう、大人だからな」

 信成は笑って、頼成から離れた。そして、こっちに向かって、

「ごめんなさい」

と言う。

「うん。今度は信成も幸せになるんだぞ」

 笑う信成に軽く浄力を当てると、キラキラと光り、消えて行った。

「大丈夫だ。心配するな」

 頼成は泣きながらそれを見送り、涙を拭いて、気恥ずかしそうに笑った。


 時間は少し遅れたものの、無事に成人式は終わり、僕と直とエリカとユキは会場を出た。

「えらい騒ぎになったわねえ」

「でも、上手く行って良かったです」

「これはこれで、忘れがたい成人式の思い出と言えるのかねえ」

「普通に、迎えたかったなあ」

 疲れた気分で外に出ると、見たことのある車が止まっており、後部座席の窓が開いて、見たことのある人が顔を出す。

 見たことのある……って、

「美里様か。偶然だな」

 エリカとユキは、それが本物の霜月美里とわかって、軽くパニックだ。

 それに、直はしぃーっと騒ぎ立てないように合図した。

「まあね。偶々通りかかったの」

「ふうん。

 あ、紹介するよ。高校時代の友人の、立花エリカさんと天野優希さん。

 エリカとユキも知ってるだろうが、霜月美里さん」

「よよ、よろしくお願いいたします。わあ、美人だわあ」

「天野優希です、よろしくお願いします」

 ペコペコする2人に、美里様は鷹揚に微笑みかけた。

 そして、僕と直に、いつもの顔を向ける。

「エリカ、と、ユキ、ね」

「うん?そうだ。心霊研究部で一緒だったんだ。

 美里様は仕事か?」

「……エリカと、ユキ」

 直が、コソッと

「イギリス」

と言う。イギリス……?

「ええっと?ああ……美里、さん」

「……」

「……美里」

「何かしら」

「面倒臭いなあ、もう」

 直とエリカ、ユキ、運転席の五月さんが吹き出した。

 






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