第202話 受験(1)神々のエール

 預かりものがあるからと、直も学校帰りにうちに寄る。

「あ。いらっしゃい」

 御崎みさき れん、高校3年生。高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった上、夏には神殺し、秋には神喰い、冬には神生みという新体質までもが加わった、霊能師である。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、春の体質変化以来、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。

「お客さんだねえ、もの凄い豪華な」

 町田 直。幼稚園からの友人だ。要領が良くて人懐っこく、驚異の人脈を持っている。1年の夏以降直も、霊が見え、会話ができる体質になったので、本当に心強い。だが、その前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた、大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いでもある。

「おう。お邪魔してるよ」

 リビングで緑茶を啜っていたのは、天照大御神と十二神将の騰蛇、イエスキリストだった。天照大御神――照姉と呼ばなければ拗ねるな。照姉はパンツにセーター、カシミヤのハーフコートという出で立ちで、スラリとしたハンサムなOL風である。騰蛇は革のジャケットと革のパンツ、ハイネックのセーターで、ミュージシャンか何かみたいだ。イエスキリストは、ジーンズにセーター、ダウンのコートで、旅行中の海外の人に見えた。

「何か、すっかり変装に慣れましたね」

「ちょっと、気に入った」

 嘘つけ。凄く気に入ってるくせに。

「楽しいものですね。教えて下さった照さんには、感謝です」

 照姉、イエスキリストにも照ちゃんを勧めたんだな。

「いや、実はな。もうすぐ大学受験だろう。それで景気付けにと思って、お前達に良い物を持って来たんだ。

 司の所に先に行って、訳を話したら、入っていてくれと言うのでな。お言葉に甘えて、御茶をいただいて待っていた」

 照姉が言って、冷蔵庫を開ける。

「松阪牛と、南高梅の梅干しだ」

 イエスキリストは、テーブルの上を指した。

「赤ワインとオレンジです」

 騰蛇はテーブルを指して、

「日本酒と米。後、菅原道真公から九州ののり、信州の山の神からはきのこを預かった」

「うわあ。ありがとうございます!嬉しいなあ」

「ありがとうございます!何か、がんばれそうだねえ」

 わざわざ、ありがたい。たかが人間の受験如きに、とんでもない事をしてもらってるという自覚は流石にある。

「うん。これは、うかうかすべれないな」

「うん。合格しないとねえ」

「まずは明後日の本試験。それから来月の前期試験だな」

「ほう。そういう仕組みなのか。小野篁から聞いた頃より、かなり変わっているんだな」

 照姉が言うと、イエスキリストもフムフムと頷いて、

「いやあ、引っ込んでいたら取り残されますね」

と言い、騰蛇は、

「ああ。俺もネットを使い出したところだ」

と同意する。

 昨今の神様って……。

「本当にありがとうございます」

「なあに。この礼は、春にでも宴会に呼んでくれれば十分だ」

「花見か。いいな。伏見の酒を持って行こう」

「私は牛肉と牡蠣と伊勢エビだな。どうせ信者から奉納される。

 イエス、あんたはどうするね。ワインとチーズなんてどうだい」

「おお、わかりました」

 何か彼らで楽しそうに宴会の打ち合わせをし、「じゃ」と帰って行った。

 それを見送って、

「それと、津山先生から鮭、富紀さんから京香さんに分けてくれって自然薯。

 今のもあるし、持てないだろうな。僕も持って行くよ」

「助かるよ、怜」

 ありがたいなあ、と言いながら、それらを半分に分けて、直の分を2人で直の家まで運ぶ事にする。

 凄くありがたいけど、もし落ちたら、何か凄く大変な事になりそうな気がするな。

「プレッシャーが、半端ないんだけどねえ」

「同じこと考えてたよ、直」

 はははと笑いながら、僕達は家を出た。

 心温まるエピソード、と思っていたが、実際の受験は、色々な霊もいるという事を、まだ僕達は知らなかったのだった。














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