第202話 受験(1)神々のエール
預かりものがあるからと、直も学校帰りにうちに寄る。
「あ。いらっしゃい」
「お客さんだねえ、もの凄い豪華な」
町田 直。幼稚園からの友人だ。要領が良くて人懐っこく、驚異の人脈を持っている。1年の夏以降直も、霊が見え、会話ができる体質になったので、本当に心強い。だが、その前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた、大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いでもある。
「おう。お邪魔してるよ」
リビングで緑茶を啜っていたのは、天照大御神と十二神将の騰蛇、イエスキリストだった。天照大御神――照姉と呼ばなければ拗ねるな。照姉はパンツにセーター、カシミヤのハーフコートという出で立ちで、スラリとしたハンサムなOL風である。騰蛇は革のジャケットと革のパンツ、ハイネックのセーターで、ミュージシャンか何かみたいだ。イエスキリストは、ジーンズにセーター、ダウンのコートで、旅行中の海外の人に見えた。
「何か、すっかり変装に慣れましたね」
「ちょっと、気に入った」
嘘つけ。凄く気に入ってるくせに。
「楽しいものですね。教えて下さった照さんには、感謝です」
照姉、イエスキリストにも照ちゃんを勧めたんだな。
「いや、実はな。もうすぐ大学受験だろう。それで景気付けにと思って、お前達に良い物を持って来たんだ。
司の所に先に行って、訳を話したら、入っていてくれと言うのでな。お言葉に甘えて、御茶をいただいて待っていた」
照姉が言って、冷蔵庫を開ける。
「松阪牛と、南高梅の梅干しだ」
イエスキリストは、テーブルの上を指した。
「赤ワインとオレンジです」
騰蛇はテーブルを指して、
「日本酒と米。後、菅原道真公から九州ののり、信州の山の神からはきのこを預かった」
「うわあ。ありがとうございます!嬉しいなあ」
「ありがとうございます!何か、がんばれそうだねえ」
わざわざ、ありがたい。たかが人間の受験如きに、とんでもない事をしてもらってるという自覚は流石にある。
「うん。これは、うかうかすべれないな」
「うん。合格しないとねえ」
「まずは明後日の本試験。それから来月の前期試験だな」
「ほう。そういう仕組みなのか。小野篁から聞いた頃より、かなり変わっているんだな」
照姉が言うと、イエスキリストもフムフムと頷いて、
「いやあ、引っ込んでいたら取り残されますね」
と言い、騰蛇は、
「ああ。俺もネットを使い出したところだ」
と同意する。
昨今の神様って……。
「本当にありがとうございます」
「なあに。この礼は、春にでも宴会に呼んでくれれば十分だ」
「花見か。いいな。伏見の酒を持って行こう」
「私は牛肉と牡蠣と伊勢エビだな。どうせ信者から奉納される。
イエス、あんたはどうするね。ワインとチーズなんてどうだい」
「おお、わかりました」
何か彼らで楽しそうに宴会の打ち合わせをし、「じゃ」と帰って行った。
それを見送って、
「それと、津山先生から鮭、富紀さんから京香さんに分けてくれって自然薯。
今のもあるし、持てないだろうな。僕も持って行くよ」
「助かるよ、怜」
ありがたいなあ、と言いながら、それらを半分に分けて、直の分を2人で直の家まで運ぶ事にする。
凄くありがたいけど、もし落ちたら、何か凄く大変な事になりそうな気がするな。
「プレッシャーが、半端ないんだけどねえ」
「同じこと考えてたよ、直」
はははと笑いながら、僕達は家を出た。
心温まるエピソード、と思っていたが、実際の受験は、色々な霊もいるという事を、まだ僕達は知らなかったのだった。
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