第195話 みかん(3)自殺ビデオ

 受験期とは言え、手が足りない時は協会から仕事の話が来て、受けてくれないかと打診される。どうせ僕は週に睡眠3時間でOKだし、気分転換になる程度の短い仕事なら受けるようにしている。

 今日もそんな仕事で、とある事故物件と呼ばれる家に行って来たところだ。

 1人暮らしのサラリーマンが熱中症で亡くなり、責任感の強さから、毎晩居間で持ち帰った仕事をする為にパソコンを操作し続けているという悲しい話で、仕事から解放されて成仏して行く時、本当に清々しい顔をしていた。

「戦士だねえ」

「戦士だよなあ」

 なかなかに、立派な人だと思った。

 でも、兄にはそうなって欲しくはない。

「残業がつけられないから、家でやって来いって事だろ。とんでもない会社だな」

「労働基準監督署にたれこんでやろうかねえ」

 怒りながら駅へ向かう僕と直は、24時間オープンのスーパーの前に来た。

「こういう店で働くのも大変そうだな。いくらバイトやパートさんがいても、正社員だってゼロじゃないし」

「正月休みだって、昔はスーパーもある程度閉まってたらしいしねえ」

「今は大手は年中無休だもんな」

 言っていると、前から歩いて来る若い男に目がいった。誰か、憑いている。頭部だけの男だ。

 その時、突然スーパー入り口のワゴンにつまれていたみかんがゴロゴロと転がり、辺りにいた人は皆ギョッとして、慌てて、車道に転がって行く前にと皆で拾い始めた。

「すみません、すみません。ありがとうございます。何でかなあ、おかしいなあ」

 首を傾げながらもバイトの店員がみかんを盛っていく。

 と、生首に憑かれている男は、急に青い顔で「ヒイィッ!」と声を上げ、走り出す。

 ワゴンを触ったりしたわけでもないし、何だ?と、皆はそれを見送り、僕と直は追いかけたかったが、みかんを抱えていて出遅れた。

「あ!」

「みかん」

 意外と足が速く、雑踏に紛れ込んでわからなくなった。

「何だったんだろう」

「でも、生首の霊がいたねえ」

「打ち首?」

「今の人っぽかったよねえ、髪形が」

「バラバラ殺人か?

 とにかく、失敗した」

 僕は、溜め息をついた。


 ミカンは、取り敢えず全力で走って、スーパーから逃げた。

 どういうわけか、転がったみかんが、全部、転がった頭部に見えたのだ。

「何だってんだ、一体」

 弁当を買いに行ったのだが、食欲は無くなっていた。

「ああ、もう」

 舌打ちをし、気分直しに、お気に入りの動画でも見る事にする。

 例の、橋の下で首を吊った男『こんだら』だ。

 憎い相手の名前を叫んで、跳ぶ。落下、そして、転がる頭部。

 ふと、その頭部の目が開き、こちらを画面の中からギロリと見上げて来た。

「ヒイイッ!?」

 飛び上がって後ずさる。

「あ、あれ?気のせい?」

 画面の中の頭部は、初めに見た時と同じで、おかしな事は無い。

「気のせいか。ビクビクするからだな、へへっ」

 ミカンは笑って、次のターゲットの事を考え始めた。










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