第125話 だるまさんがころんだ(1)楓太郎の夏休み

 夏休みも半分が過ぎた。楓太郎は年下の従兄弟達や近所の子供達の遊び相手になってやりながら、高校生活初の夏休みを回想していた。

 高槻楓太郎、高校1年生だ。入学式直前に交通事故に遭って、学校に行きたいが為に知らない内に生霊となって学校に通ってしまっていたという過去を持つ、心霊研究部員だ。

 ついこの間の部の合宿では神隠しの山で殺されかけ、先輩によって助かった。

 去年の合宿でも、海で殺されかかったと聞く。

 心霊研究部は、そんなに危険な部活なのだろうか。

 まあそれでも、楓太郎とその両親の先輩への信頼は、微塵も揺るがないが。

「ねえねえ、今日の分の宿題終わった。遊ぼ」

「皆終わったらねえ」

「終わった!」

「俺も!」

 次々と終わった宣言をする子供達に、楓太郎はニコニコと笑いかけた。

「はいはい。じゃあ、何して遊ぼうか」

「かげふみ!」

「ぬすたん」

「だるまさんがころんだ!」

 走り回るものだと、小さい子が危ないし、暑い。

「だるまさんがころんだか。いいね」

 ということで、だるまさんがころんだをすることになった。

 最初のオニには、楓太郎がなった。

「最初の第一歩。だあるまさんがこおろんだ」

 バッ、と振り返る。

 小さい子はグラグラと揺れているが、まあ、仕方ない。サービスだ。

「だあるまさんがこおろんだ」

 ピッと止まる。やる気に満ち溢れた攻める気満々のやつがいれば、少しだけ動く慎重なやつもいる。

「お、健司動いた!」

「クッソォー」

 男の子が1人、動いたところを見られて、鬼である楓太郎に小指で繋がれる。

「ふっふーん。あと4人だな」

 顔を柱に向け戻そうとして、違和感を感じ、また子供達のほうへ向ける。

「楓太郎兄ちゃーん、フェイント無しィ」

「あはは、ごめんごめん」

 笑いながら、素早く子供達の数を数える。4人だ。

「あれェ。5人いたように見えたんだけどなあ」

「楓太郎兄ちゃん、早く、早く」

「ああ、はいはい」

 楓太郎は大人しく柱に向かい、

「だあるまさんがこおろんだ」

と、ゲームを続けたのだった。


 祖父母の家に泊まり、夜、近くのコンビニにアイスを買いに行った帰りの事だった。

「小さい子ってかわいいなあ。兄ちゃん、兄ちゃんって。へへ」

 それはまさに、自分が先輩達から向けられている目とほぼ同じなのだが、そこには気付かず、嬉しそうに歩く。

 と、後ろから小さい足音が聞こえて来るのに気付いた。

 もう10時なのに、と思いながら何気なく振り返ってみたが、誰もいない。

「あれ?」

 おかしいなとは思うが、気のせいかと考え直し、また歩き出した。

 でもどういうわけか、その小さな足音は、家に着くまでずっと後をついて来たのだった。





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