第49話 約束(3)植物園、その後

 しばらく、誰も喋らなかった。

 今回ユキは見えていたし、エリカには特別に見えるように札を持たせていたから、全部見ていたのだ。

「前半は感動したんだけど、最後のあいつでガッカリね」

 エリカが嘆息した。

「それにしても、嫌に詳しかったような……」

 仮にも一般人を連れて行くのだから、危険がないか下調べしておくのは当然だ。

「まあまあ、エリカ。初めて幽霊を見た感想はどう」

 直が、エリカを上手く誘導した。

「生きてる人みたいだったわ。いつもあんな感じ?」

「だったら楽だよねえ、怜」

「全くだ」

「また──」

「もうないからな。一回だけの約束だろう」

「……ケチ」

「エリカ、無理を言っちゃだめよ。多分これは、特例みたいなものでしょ」

 ユキの言う通りだ。これが安全な部類の霊だったので、直の実地訓練込みで今回だけ、津山先生に頼み込んで認めてもらったのだ。特例だ。

「仕方ないわねえ。はあ。

 ま、いいわ。これで文化祭も乗り切っていけそうね」

 エリカは嬉しそうに、カメラを撫でさすった。


「という事で、無事に終わりました」

 僕と直は、津山先生に報告していた。

「ん、ごくろうさんやったなあ。これであの2人も、あの世で一緒にならはったやろ」

 良かった、良かったと、ご満悦だ。

「それで、文化祭は上手くいきそうなんか」

「霊が映ってるから、僕達の入っていないのを使えそうです。後は、トリック写真の解説をやれば、そこそこの分量になりそうですよ」

「そうか。文化祭、楽しみやな。メイド喫茶とかいうんもあるんかの」

「津山先生、来るの?」

「おう、行くとも。徳川君とも行こうって約束しとるしの」

「……あの人、暇なのかな」

「はははっ」

 まあいいか。

 面倒臭いだけだと思っていた文化祭だが、案外楽しいことになるかも知れない。そう思うと、少し楽しみになった。


 まあ、楽しくなかったとは言わない。言わないが、大変だった。

 それと、来年はもうこの手は使えない。何とか心霊写真を普段から撮るようにするか?でも、仕事のたびにいちいち写真を撮るって、それもなあ。

 考えていると、桜の木が見えて来た。

「本当に、人がいっぱいですね」

 本当にこれが展示のせいなのかと思っているが、若い人がたくさんいる。

「聖地とか言うそうですね、今は」

 職員が笑う。

 文化祭の後、やたらとカップルが来て、ここで愛を誓うようになったという。そして、女の子同士で来た子は、縁結びを願って帰るのだと。それも、市外から。

「おかげさまで、廃園は免れ、以前よりも来園者が増えました。この先のクリスマス辺りにはもっと増える見込みです」

 職員は嬉しそうに、そう言った。

 植物園から部に連絡があり、一度来てもらえないかと言われたのだ。

「いえ、お役に立てたなら幸いです」

 エリカはにこにことして言い、ユキは眩しいものを見るように目を眇めた。

「ま、良かったんじゃない」

 直も、あの2人を思い出しているのか、柔らかい顔をしている。

「それでですね、相談なんですが」

 市の職員は、ニッコリとした。

「廃館の危機にある郷土資料館がありまして」

「……出るんですか」

 手を前にだらんとさせるエリカに、

「はい。出ます」

と、同じポーズをとる市職員。

 ああ、そういう……。

 もう、面倒臭い話だな。


 


 

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