第42話 探す・エリカ(3)大いなるミス
逃げた。田中と村田は、殺されたのに違いない。
次は自分が殺されるのか。
朽ちかけの家屋に隠れていると、エリカを呼ぶ声がする。ソッと、隙間から外を窺った。
運転手が、薄笑いを浮かべながら通りを行く。
そうだ。あの運転手にはバスがある。離れたふりをして戻って来たのかも知れない。バスの中に、死体があるのかも知れない。
山中が、はあはあと息を切らせながら通る。
妙にオドオドとして、変に人気のない所でばかり会った。もしかして、狙っていたのか。井戸の所の血痕は、田中か村田の血で、死体は村の中なのか。
林が、ゆらーっと走る。
あの気配のなさ。あれで近付き、刃物を急所に・・・!
いや、田中と村田。この2人だってどうだか。どちらかがどちらかを殺し、残った方は、あの3人の誰か、もしくは3人によって殺されたか。
そうだ。あんなにケンカばかりしてた2人がどちらもいなくなるなんて、不自然だ。
考えれば考える程、色んな怪しさが出てくる。
どうしよう。私は幽霊の写真を撮りに来たのであって、幽霊になりに来たのではない。そうエリカは思った。
その時、肩に手がかかった。
「立花さん?」
エリカは、失神した。
知らない天井──成程。確かにその感想は、正しい。目を開けて、視界に入るのが天井で、その天井に見覚えがなければ、そう思う。
エリカは妙に理屈っぽくそう思い、体を起こした。
そこは廃屋の中で、自分の周りにグルリと取り囲む形で、他の5人が座っていた。
え、5人?
「田中君と村田さん!生きてる!?」
2人はキョトンとし、揃って
「は?」
と言った。
わけがわからなくなった。
「え、だとしたら、被害者は誰……」
自分か。5人が共犯で、自分を殺すつもりでネットに募集を!?
「あの、落ち着いて、立花さん」
村田さんが、柔らかい感じで言った。
この人、村田さんじゃない!?
「大丈夫?」
林さんが言った。
「何か誤解してないか?」
山中がオズオズと言った。
「何を誤解していると?古井戸の所に血痕があったし、誰かが隠れ住んでいるような納屋には血のついた鎌が置いてあったし、仲の悪い2人が揃っていなくなるなんて──ああ、いたわね」
5人は少し考え、口を開いた。
「納屋には、ホームレスが住み着いてるけど。それに鎌に血って、それ、赤錆じゃないか」
運転手が言った。
「古井戸の血は、ぼ、僕のだよ。ちょっと、偶然見ちゃって、興奮して……」
赤くなって山中が言うと、なぜか、田中と村田も真っ赤になった。
林はそこで、
「ああ、そうなんですね。
先輩達、恋人なんです。こと幽霊にかけては意見が真っ二つで、ケンカばかりなんですけど」
と、溜め息をつく。
「……はい?つまり?」
田中と村田と山中が、ますます真っ赤になって俯く。エリカはわけがわからない。
運転手が頭を掻きながら、半笑いで、
「その……つまり、あれだね。あれしてたのをあれで……」
エリカはイラッとした。
「全然わからないわ。指示語ばかりじゃ」
田中がついに、ヤケクソのように言った。
「エッチしようとしてました!そこを山中君に見られて、慌てたら服をひっかけて破ったので、出るに出られなくなったんだよ!もうこれでいい!?」
そう言えば、田中も村田も、来た時と服が違うし、サイズが合ってないような……。と、運転手を見ると、運転手が、
「電話で頼まれて、コソッと持ってきて渡したんだけど……ばれたねえ」
と困ったように笑った。
エリカはもう1度、後ろに倒れ込んだ。
というわけで、エリカはツアーから戻った今も頭を抱えている。
恥ずかしい誤解をした上に、結局、幽霊スポットというのはガセだった。つまり、あれほど撮った写真も、ただの写真なのだ。
エリカはガシガシと頭を掻いて髪をぐしゃぐしゃにすると、
「よし。次は絶対に撮る!」
と、デジカメの映像を消去した。
だが、エリカは知らない。丁寧に探せば、人生初の心霊写真が見つけられた事を……。
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