第47話 男好きな霊感ホステス その2

「聖子ちゃんのこと理解できないよ。なんでいつもそんなモテるひとを好きになるのよ」渚沙は呆れたり同情したりしながら尋ねる。

「わかんない、そういう人ばっかり好きになっちゃうの」聖子は少女のように甘えた声を出す。


 いい歳してかわい子ぶっているように聞こえるので、演技なのかと思うがよくわからない。ただ、聖子は隠し事をせず、正直に何でも打ち明ける。嘘も吐かない。渚沙は彼女のそんなところがけっこう好きなのだ。でなければ、男好きでホステスなんかをしている聖子とは付き合わないだろう。

「それじゃあ誰も聖子ちゃんのこと助けられないよ」と渚沙は吐息をついた。生き神だって助けないと思うわ。


 渚沙が知っている最悪なケースは、聖子がシャンタムの聖地がある村で知り合った不良少年と、になってしまった時だ。

 一度、少年がナータの寺院に聖子をタクシーで迎えに来たことがある。聖子がシャンタムの聖地に行くと電話したのだ。もちろん、タクシー代は聖子持ち。少年は、聖子より一回りは年下で高校一年生くらいに見えた。聖子のほうは本当に好きだったらしいが、少年にとっては欲望のはけ口、いわゆるセフレでしかないだろう。

 前回、シャンタムの聖地近くの村で、性行為に及んだ後、眠っているすきに、少年が財布からお札を抜き取ったといって聖子が腹を立てていた。二百円程度の現地の紙幣一枚だ。いずれにしろ、少年との性行も盗みも、すべての責任は大人の聖子にあるだろう。当時、渚沙は深く考えなかったが、発覚したら未成年との淫行いんこうで聖子は捕まったかもしれない。


 それを最後に、聖子はトラタ共和国には来ていないが、極たまにメールが送られてくる。アラサーからアラフォー、いくつ年齢を重ねていっても聖子のテーマはいつも同じ「男」だ。

 それでもやっと、いい加減生き方を改めようという自覚が出てきて、結婚目指して料理に力を入れ始めたという。だが、結局聖子はお金のために水商売をやめないし、イケメン男を次々に好きになることもやめられない。そんなことだから、悪い霊に取りかれるんじゃないかと渚沙は思う。

 そういえば、ナータのところに来ると、霊障の話をしていない。聖地では自然に消えてしまうのだろうか。聞くのはいつも渚沙の帰国時で、電話で話をするときだけなのだ。


 ごく最近、聖子から新種の悩みを相談された。正体不明の集団ストーカーにで攻撃されているから助けてくれという。いよいよおかしくなったのだろうか。他県に引っ越しても職場を変えても攻撃される。勤め先を転々とするが、どの店のオーナーも従業員も、客でさえも冷たい態度に変わるという。みんな、誰かに操られていると聖子は主張する。某カルト団体を脱会したからその種の嫌がらせを受ける、という話は聞いたことがあるが、聖子は違う。そういった団体には関わったことがないといっていた。

 

「そりゃあ、電磁波がどうとかいったら店の人たちは距離をおきたがるよ。店では黙っていたほうがいいよ」と渚沙。

「だって、オーナーには話しておかなくちゃいけないでしょ」

「いや、やめたほうがいいって。みんな警戒するよ、おかしい人と思われるだけだから」


 渚沙は、警察やその分野の専門家に相談する、一応病院に行くなど何かしら現実的に動くことを勧めた。大人が突然統合失調になるという話をサイトのニュース記事で読んだのだ。

 だいたい貧乏な聖子を他県まで追いかけてきて、嫌がらせをして何の得があるのだろう。お金だってかかる。そんな暇人がいるだろうか。

 最初は真剣に話を聞いていたが、結局妄想としか思えなかった。男の話と同じく、ナータにすがるのではなく、現実的に物事を考えるようにいったが聖子は一切聞く耳を持たない。

 もしかしたら、また何かに取りかれているとか……?


 シャンタムもナータも、そして他の聖者たちも、酒場や風俗店、ゲームセンター、映画館、享楽の場には闇の力が蔓延まんえんしていると警告している。この世の最後の時代、「暗黒期」には、サタンの力がそういった場で人々に悪影響を及ぼすそうだ。シャンタム語録にも載っていることを聖子も承知している。

 もう酒場で働くのも、そこに来るお客と付き合うのもやめたほうがいい。渚沙は時々それらの話を持ち出すが、彼女は自分の行動を変えようとせず、相変わらず同じ悩みを打ち明けて来る。可哀想なので話は聞くが、結局いつも同じ返答しかできない渚沙だった。

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