LUNCH@TOILET

薄氷雪

LUNCH@TOILET

 俺は今、昼食の時間を満喫している。わけもなくパンツをずりおろし、和式の便器に跨がって母親特製の弁当を食う。

 料理上手な母は、毎日とてもお洒落な弁当を作ってくれる。今日の弁当は、きんぴらごぼうと肉巻きごぼうと筑前煮とごぼうのサラダのようだ。食物繊維が沢山とれて体に優しい上に、灰色、赤色、灰色、肌色、灰色、茶色、灰色、黄色、灰色、緑色、灰色と目にも優しい。

 ジャーという心地好い水の流れる音が聞こえ、嗅覚はトイレ独特の臭気を捉える。最高のランチタイムだぜ。

「おい、また人が入ってるぞ」

 俺の時間を邪魔する男の声とノックの音。対象はそう、俺の特等席だ。もうトイレでうんこをするやつを虐める年齢は卒業したのだから、そんなことを言う必要なんざないだろ!と怒りを露わにしながら、俺はごぼうを口に突っ込んだ。もうこのごぼうがどの料理のごぼうなのかわかんねえ。

 そう、俺は便所飯をしていた。理由は特になかった。ただ、食べる相手がいなかっただけだ。気がつけば、トイレが俺の居場所になっていた。どうして、こんなことになってしまったのだろう……。それは徐々に進行していたのだ。恐らく誰にも理解されることはないだろう、永遠に。


 こんな俺でも、誰かに恋をすることはあった。告白をしていたら、何か変わっていたのだろうか。そんなことは俺にも分からない。

 だから、せめてネットの中だけでも誰かに認めてもらいたかった。神に俺の願いが届いたのか、ネットで知り合った友達は少しずつ数を増やしていった。

 勿論、その中には女の友達いた。恐る恐るメールアドレスを交換し、文面を何度も確認しながらメールを送信する。なんとかして顔写真を手に入れ、それをご飯のおかずにした。

 彼女は、祥子はまあまあ可愛かった。他人と比較するとそれほどでもないのかもしれない。しかし、俺の世界から見た祥子は本当に可愛い。顔写真を送るハメになり送ってしまったが、彼女はこんな俺でもかっこいいと言ってくれた。

 俺と彼女は付き合うことになった。ネット彼女だった。ネットという架空の空間での話。どこまでいっても架空の話かもしれないが、祥子という存在は、いい意味で、リアルの俺に影響を与えた気がした。


 そんな祥子と今度会うことになった。生まれて初めて女と遊ぶ。その緊張感で何度も色んなところが張り詰めてくる。

 やばい、また緊張してきた。来月の話なのに。うっ、ややつらい。

「……ごちそうさま」

 危ないときでも一人きりだし、なんでも出来るのが便所飯の長所だ。一息吐いてからズボンを上げ、これもまた、わけもなく水を流して外に出る。

「あっ」

 俺はある男を見た。なかなかいい男である。だが、布に包まれた例のものを携えていた。

「……ども」

 彼はぼそっと呟く。そう、彼もまた、俺と同じ宿命を背負う者だった。俺は生まれて初めて自分の仲間を見つけた。

「あの、」

「いつもここで食べるんですか」

 男は、俺が聞くよりも早く、俺が聞きたかったことを尋ねてきた。俺は「ああ」と答える。男のやや不器用な笑顔は、安堵が含まれていた。

 俺達二人は、その後はなんの言葉も交わさずにトイレを出た。


 午後の授業が始まった。授業というものはある意味孤独で、それ故俺にとっては楽なものだった。一番辛いのが先生に指名されたときだが、それ以外は本当になにもなくて、物思いに耽って一時間を過ごす。

 休み時間の方が地獄だった。俺の寝たふりをする時間を勉強に充てたら、一体どのくらい成績がよくなるのだろうか。しかし、休憩時間に勉強している奴が、どういった反応をされるかはよく分かっている。だから俺は、寝たふりをするしかないのだ。

 今日も、色んなことを考えた。後一時間で学校が終わることや、帰ってからしたいこと、そして、祥子のこと。

 来月、どんな服装で彼女に会えばいいのだろうか。初対面の彼女は、どんなお洒落をしてきてくれるのだろうか。そのお洒落は、俺のためにしてくれるものなんだな……。うっ、また、ややつらくなってきた。

(授業中にこんなこと考えるんじゃなかった……)

 帰り道はいつも一人。帰り道だけじゃなく、行きもだが。別にそれは今に始まったことじゃないから、嫌ではない。誰かと歩幅を合わせる必要もないし、話を合わせる必要もないし、気楽でいいもんだぜ。うわ、今俺、ちょっと上手いことを言ったんじゃないか。合わせると合わせるを掛けてみた。

 大きなリュックサックを背負い、俺の前を歩き続ける影を眺めながら、今日もまた家に向かった。


「あ……こんにちは」

 いつも通り便所飯をしようと思っていたら、トイレの前に昨日会った男がいた。

「今日は、他の所で食べない?」

 彼はそう言うと、中庭へ行った。俺は何も言わずについて行った。

 中庭は、弁当を食べている人が予想していたよりも少なかった。この学校は、グラウンドの端にベンチがあるから、そこに座って昼食を摂る人が多いということなのだろう。

「俺以外にトイレで食べてる人がいるなんて思わなかったよ」

 慣れた手つきでナプキンを広げ、弁当箱を左手に持ちながら食べようとした彼だったが、はっと気が付いたのか、膝の上に置いて出来るだけ上品に食べ始めた。

「俺も……」

 なにを喋ったらいいのかよく分からない。やはり、共通の趣味……というか、習慣について喋るべきなのだろう。

「いつから、食べてるの」

「んー、入学して一週間位してからかな。ネットでこういうことしてる奴らいっぱいいるし、あんまり抵抗はなかったけど」

「そ、そうなんだ」

 今日の俺の弁当も豪華だった。ジャーマンポテト、ハッシュドポテト、フライドポテト、コロッケ、ポテトサラダ。炭水化物が豊富にとれてエネルギーがつく上に、黄色を主とした彩りが美しい。

「やっぱ、便所飯って言ったら立食だよな」

 彼は急に語り始めた。えっ、しゃがんで食べてる俺は邪道なのか?

「う、うん」

 一応話を合わせる。「ネットで見たんだけどさ」と、彼は続けた。

「しゃがんで食べてると脱腸するらしいぜ」

 その言葉を聞いて、俺はもう少しでじゃがいもを噴き出しそうになった。食事中に喋ることじゃないだろ。ま、まあ、トイレで食べる奴が言うことじゃないんだけどさ。

「段々慣れてくるとさ、周囲の目すら気にならなくなって、臭いのキツイもんが食べられるよな」

 彼は俺の方を見て苦笑した。妙にイケメンのこいつは、一体トイレで食べる必要があったのだろうか?いや、ない。

「あー分かる分かる!カレーパンとか!」

「俺なんか、カップ焼きそば食ったことあるぜ?」

「マジかよ?全然気付かなかった」

「だってあのトイレ臭いじゃん」

 その返しに俺は思わず笑ってしまった。久しぶりに声を出して笑ったので、笑い方が変だったかもしれない。一方彼奴は、爽やかな笑みを浮かべていた。これがイケメンとブサメンの差というやつなのだろうか。

「なあ、今度から一緒に食べようぜ」

 蓋を閉めてナプキンで包み直すと、彼はそう提案してきた。この上なく嬉しい。もしかしてこれは、友達になろうということか?

「うん、いいよ」

 それからしばらく喋って、それぞれの教室へ戻っていった。彼が隣のクラスだということを知ったのは、一週間過ぎてからのことだった。


「俺、実は彼女いるんよ」

 ある日の昼休み、「ほうれん草・パラダイス」を片手に、俺は初めて人に打ち明けた。

「へえ、そうなんだ」

 美味そうなおかずを頬張りながら、彼は関心を向ける。

「じゃあ、彼女と食べたらいいのに」

「実はさ……」

 彼女、祥子のことを詳しく話す。彼は、俺が他人に話さなかった理由――ネットで知り合ったから笑われるという不安を、見事に払拭してくれた。普通、ネットで知り合った人と付き合っていると言えば、大抵の人間は笑い、馬鹿にするだろう。笑わない理由は、意外なものだった。

「普通の人ならこういう話笑うんだろうけどな、俺も付き合ってるから」

「ええ、なにで知り合った人と?」

「ゲームだよ」

「俺と同じじゃん」

 話しづらかった自分の話は、思わぬ方向へ進んだ。逆に俺達の会話は弾み、彼がブログをしていることを聞いたり、今度俺が彼女と会うということを話したりした。

「俺、高校入る前に会ったよ。すっげえ可愛かった。写真で見るよりも可愛いんだ」

 二人で撮ったプリクラを見せてもらう。なるほど、確かに可愛い。

「会うのってさ、デートっつうか……オフ会に近いじゃん、どんなことしたの」

「んー」彼は、箸を持った右手をブラブラさせながら、答えを考えた。 「俺が相手の方に行ったからさ、その街の色んなところ紹介してもらいながら散歩して、最終的に人通りの少ない場所でずっと喋ってたかな」

「ひ、人通りの少ない場所……」

 俺は思わず狼狽えた。もう少し幼い頃の自分だったら鼻血を垂らしていたかもしれない。

「な、なにしたの」

「それは言うわけないだろ!」

 奴は語尾に「lol」が何個も付きそうな口調で話した。顔がかなりニヤついている。

「ま、まさか」

 俺が予想していたことを言いかけたとき、ごつんと頭を小突かれた。咀嚼している彼が物凄く笑顔なのを見て、色々と察したので大人しく飯を食うことにした。


 いよいよ、いよいよ祥子と会う週になってしまった。授業が全く頭に入らない。二つ隣の県だが、交通費は足りるのかとか、どんな服装で行けばいいんだとか、女の子はどういうことをしたら喜んでくれるのかとか、授業中はそのことばかりで頭がいっぱいだった。

 そういえば、こういうことでしか悩めないのは学生のときまでだから、学生はいくらでも悩めばいい、と、何処かの本で読んだことがある。個人的に好きな言葉だ。

「ヤバい、もう俺、楽しみすぎてヤバい」

 やはり昼休み、俺は奴と話していた。授業中よりも、今、こうやって話しているときの方がややつらい。だが、友達に喋った方が楽じゃないか?特に、相手はオフ会の先輩なんだし。

「あんまし早まるなよ、へへ」

 明らかに早まっていそうな人がそれを言うか!そう心の中で突っ込みを入れて、「大丈夫だし、多分」と答える。

「自然体で行った方が割とすんなりいくと思う。あと、会った直後の気まずさは異常だわ」

 思わず納得した。確かに、初対面のときからぺらぺら喋れる人は滅多にいないだろう。まず、そんなスキルを身につけていたら、ネトゲなんかしていない。

「後はほんと、いつも通りでいればさ、なんとかなるよ。お前カッコいいし、相手も自然にまた……」

 相手の言いそうなことがなんとなく予想出来たので、今度は俺が頭を小突いた。少し拳が痛い。第一、イケメンにカッコいいなんてお世辞言われたら、空しくなるだろ。

「まあ、さ、楽しんでこいよ。終わったら報告な」

「え、うん、分かった」

 丁度いいタイミングで予鈴が鳴ったので、俺達はその場を後にした。


 いよいよ、いよいよ前日になってしまった。ややつらいって問題じゃなくなってきたのだ。しかも、今は午後七時。俺が電車に乗るまで後十四時間となってしまった。うっ、かなりつらい。今日は早く寝ようかな。

 そう思っていた矢先、携帯が鳴った。祥子からだった。どうやら、部活があって携帯を触れなかったらしい。

「明日楽しみだねー!」

 俺は、祥子のメールは他の人と別のフォルダに保存している。それでも、もう一つのフォルダにある受信履歴は母親からのものと、ネットの友達からのものだけだった。

「十時半に着くよ」

 遠足の前夜はなかなか寝つけない人が多い。俺もそっち側の人間なのに、祥子とのメールのやりとりは十一時まで続いてしまった。明日、ちゃんと起きられるだろうか。

(うっ、ややつらい……)

 親を起こさないように一階に降り、俺はトイレへ駆け込んだ。


 ピピピピピ、目覚まし時計が鳴る。パッと目を覚まして、鉛のように重い体を必死で起こし、目覚まし時計を止める。その後大きく伸びをして、「あいうえおあいうえお……」と何度も繰り返した。これで目覚めはスッキリだぜ。

 母親が用意してくれた朝食を食べるために一階へ行く。録画してあったドラマを見ながら、「おはよう」と言われた。机上にあったのは、茹でたブロッコリーだった。

「えっ。これだけ?」

「ならお前が作れ」

 母親の返事が恐ろしかったので、黙って食べることにした。ブロッコリーを目にすると、昔、自転車のサドルが盗まれてブロッコリーが差し込まれていたのを思い出す。もひもひ。

 体がブロッコリー臭くなっていたらどうしようと考えて、歯磨きは入念に行った。別にいやらしいことは考えていないんだぞ。料理をまともに作らない母親が悪いんだ。

「行ってきまーす」

 自転車のペダルを必死に漕ぎ、駅に着いたのは電車が出る十五分以上前だった。祥子とメールして、電車に乗り込み、一回乗り換えた後、ぼんやりと窓の外の景色を眺める。

 不思議なものだ。同じ日本なのに、雰囲気が場所によって全然違う。見慣れていないから、というのが理由かもしれないけれども、それでも、二県離れているだけでこんなに違うものなのか、と感心する。

「まもなく――」


 改札口を出て、取り敢えず電話する。

「もしもし」

「もしもし、もう着いた?」

「今改札口出たところだけど」

 などと話していると、俺と同じく、携帯電話を耳に当てている女の子を見つけた。

「えっあっ」

 そう声が聞こえて、目の前の女の子は携帯をパタンと閉じてこちらへやってきた。耳元ではツーツーという音がする。……祥子だ。

「こんにちは」

 挨拶をすると、ぺこんとお辞儀される。顔写真を見たが、やっぱり、会ってみると印象は全然違うものだ。リアル祥子の方が数十倍も可愛い。それに、俺の方が背が高いから、自然と上目遣いになってたまらない。

「何処に行く?」

 俺がそう答えると、祥子は笑顔で歩きだした。

「なんもない街だけど」

 そう祥子は言うが、初めて来た街というものは全てが新鮮で、見ているだけでも楽しいものだ。他愛のない話をしながら様々な場所を見て回り、最終的には、公園のベンチで落ち着いた。あいつの言っていたことと、あんまりしていることが変わらない気がして、一人で笑ってしまう。

「どうかしたの?」

 尋ねてくる祥子に、俺は自分の友達の話をした。出会った場所がトイレであることは言わなかったが、でも、彼女は俺が便所飯をしていることは知っていた。

「あはは、学校にそういう人がいるなんて珍しいね」

「そうかな?ネトゲしてる人は多いと思うけどな」

「そうじゃなくて、ネットで出会った人と、付き合ってる人ってこと」

「ああ、なるほどね」

 途中の道にあった自動販売機で買ったジュースを時々飲みながら、俺と彼女は夕方まで話し合った。


(……駄目だ、男の方から、ちゃんとしないと。頑張れ、俺)

 自分の頬を両手でぱちんと叩き、拳をぎゅっと握りしめて、俺は立ち上がった。

「あのさっ」

 急にした行動に、祥子は目をぱちくりさせる。

「な、なに」

 大きく息を吸い込んで、勇気を出してこう言った。

「ね、ネットで付き合ってるけど、なんていうか、俺と付き合ってくれませんか!」

 彼女は再び驚いた顔をして、何故か笑い出した。

「あははは……なに言ってるの」

「なにって……」

 笑いが少し収まった祥子は、俺を向き直してまじまじと俺の顔を見つめた。凄く恥ずかしいんだが、どうして見つめられてるんだろう。

「俊ちゃん、私達もう、付き合ってるじゃない」

「いや、だから、ネットでじゃなくて、」

「だーかーらー!付き合ってるの!大体、ネットの中だけの関係だったら、会うわけないじゃん!」

 えーと、じゃあ……俺と祥子はもう付き合っているってこと……?ということは、祥子は、俺のリアカノ……。

(うっ、ややつらい)

「はは、俊ちゃん、顔真っ赤」

  顔が熱い。目の前にいる「彼女」という存在を改めて認識したら、ややつらくなってきた。

(よし、よくやったな俺、後もうちょっと頑張れ)

「じゃあ俺と……してくれない」

「んえ?え、えええ?」

 彼女はブンブンと首を横に振った。拒絶されて泣きそうなんですけど。

「だめっ、だめだよ!だって、まだデート一回目じゃん!そういうのは、もっと大人になってからじゃないと……」

「え。大人になってからじゃないと、キスしないものなの」

 俺は深く反省した。自分の知識不足に反省し、恋愛という神々しいものに対する妙な先入観を持っていたことをひどく後悔した。

 だって、女と付き合ったこと、ないんだぜ。そんな俺が、勇気出してキスしよって言ったのに拒絶されて……なんて恥ずかしいんだ。

「するって、ちゅー……」

 何か合点がいったのか、彼女は耳まで真っ赤になって、頭を抱えた。

「あー……ごめん、勘違いしてた。いいよ」

 勘違いって、一体なにと――そう聞きかけて、自己解決した。言い方悪すぎだろ、俺。

「じゃあ、目、閉じて」

 恥ずかしさをいっぱい湛えながら、祥子はそっと目を瞑った。着弾点をしっかり見定め、俺も目を閉じて、彼女に唇を押しつけた。

 うっ、かなりつらい。つらすぎる。

「なんか、こういうの、恥ずかしい」

 それからはついつい黙り込んでしまった。横に座って、手探りで彼女の手を探す。そっと置いただけだったが、祥子はぎゅっと握り返してくれた。

 その場の空気に耐えられなくなったのか、祥子は一生懸命話のネタを探して、話しかけてくれた。俺はそれに返事するのに必死だった。


「今日はありがと」

「また、デートしようね」

 祥子と別れる時間が来てしまった。切符は往復を買っておいたから、改札口前で少しだけ言葉を交わす。

「ほんとに楽しかったよ。帰ったらメールちょうだい」

 笑顔で見送ってくれる彼女に俺は手を振り、ホームへ向かった。電車が来て、空いている座席を探して座る。携帯を取り出し、祥子にメールを送った。

「帰ったら一緒に狩る?」

「うんっ」

 正直、家に着いたときはクタクタだった。でも、今日幸せだった余韻をいつまでも引きずりたくて、パソコンの電源をつける。

「こんー」

 ゲームを起動しいつものサーバーでログインすると、真っ先に祥子がチャットをくれた。いつも通り友達とチャットをしながら、敵を倒してレベルを上げていく作業に移る。充実した俺の時間だ。

 祥子との話題は、今日のことについてばかりだった。俺と祥子が今日会ったことを知っている人は、俺に色々と聞いてきたが、恥ずかしくて喋れない。

(そうだ、あいつに連絡しとかないとな)

 メール画面を開いて、約束していた通り今日の報告をした。「なんだ、あんまり進展ナシかよ」という返信がきた。俺にしては頑張った方だと思ったんだがな。メールのやり取りをしている合間ふと画面を見ると、俺のキャラクターが死んでいた。


 はあ、今日は本当に疲れた。生まれて初めて、こんなに疲れることをしたかもしれない。彼女とデート。楽しかったけれども、疲れた。全国の恋人達はこんなに疲れることを毎日のようにしているのだろうか。こんな疲労感は、一回目だけであってほしい。

 でも、今回のデートで分かった。俺は、ネットの奴らがいれば生きていられる人間なんだ。他の人は友達といないと生きていられないのかもしれないけれども、それでも、俺はネットの奴らと笑い合ってたらそれで幸せだ。それに、どんだけ学校が辛くても、祥子さえいれば大丈夫なような、そんな気がする。こんな夢のような出来事が、ずっと続けばいいのに。

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