第410話 末姫さまの思い出語り・その19

 ヤーマン・アフォール。

 帝国内で拉致誘拐奴隷売買を主導し、祖国から流刑にあった隣国の元第五王子。

 早くから将来奴隷売買を仕切るよう育てられたと言う。

 もし前任者が捕まらなかったら、あの若さでその役目を受けることはなかったかもしれない。


「王国もそう育てた罪悪感からか色々と船に積んでくれたそうで、それを元手に漂着したカウント王国で商売を始めたそうだよ。何年かして落ち着いてみれば、王宮の異様さを思い出したと」


 元王子は語った。後宮は異常だったと。

 正妃とその子供たち、側妃が生んだ第一王子。

 それ以外の側妃と子供たちは何かに興味を持つことを許されなかった。

 決められた日常生活を淡々と送るだけで、感情をあらわにすることはなかった。

 それとは反対に王妃とその子供たちは、愛し愛される幸せな家族の姿を国民に見せていた。

 全ての幸せは国王夫妻とその子供たちの為に。

 そんな中でなぜ第五王子だった商人だけが喜怒哀楽を許されたか。

 それはいつか後宮を出て奴隷売買の元締めとして人と付き合わなければならないからに他ならない。


「幼い頃に死産と伝えられた赤子が生きて後宮の外に出されるのを見た。それを問い詰めた結果として奴隷商となることが決められた。たまたま後釜を探していたからで、そうでなければ口封じに殺されていただろう。彼はそう言っていたよ」


 ある日急に別の離宮に移った兄弟たち。

 そのまま二度と会うことがなかった。

 長じて彼らが奴隷として売り払われていたことを知る。

 教養を身に着け整えられた容姿。

 さぞや高値がついたに違いない。


「側妃とは奴隷を産む道具で、後宮は高値の奴隷を育てる牧場だった。それを知った商人は大物、帝国での商売が終わるまで出荷は控えるようにと指示を出したそうだよ。一度に大量に売り出せば値崩れが起きるとね」

「出荷って・・・」

「その後国を挙げての帝国での誘拐と奴隷売買が摘発され、結果として後宮は閉鎖。正妃とその子以外は全員臣籍降下となって奴隷になる運命を逃れた。 直接関わっていた貴族は一族極刑。奴隷売買の悪習はそこで途絶えた」 


 当時の国王は側妃制度と後宮を廃止し、それで全てが終わったはずだったとギルおじ様は言った。


「にもかかわらず物語の強制力で今回の事が起きたということですか ? 」

「この世の事象には必ず因果があるものだが、今回のこれについては何故とかどうしてとか考えるだけ無駄なんだよ、ナラ。一応数十年前の恨みと言うことになってはいるけれど、まずイベント有りきだからね。つまり」


 奴隷売買同様、女学院での陰謀が暴かれることを前提として全てが始まっている。


「ディードリッヒもみんなも覚えているね。以前大御親おおみおや様から聞いた話を」

「・・・転移した人間が自分の意志で動いて物語が変化しているように見せかけて実は、という話でしたね」

「その通り。つまり隣国の人間は全てイベントの為だけに存在し、その動きは選択肢としてプログラミングされているということだね。マール、例のアレではどういう話になっていたかい」


 話も何も、とマールが言った。


「ヒロインとその仲間が女学院の闇を暴いておしまいでございました。尺が足らなかったのか、隣国でのことは首謀者が処刑されたとだけ」

「そう、アレでは隣国の出番はそれだけ。しかも開始予定より数十年過も過ぎている。すでに最初の発案者も首謀者も生きてはいない。何もなければこのまま愚かな令嬢を輩出するだけのはずだった。けれど長い年月の果てに主演女優が入学してしまった。そして物語が動き出した」


 主演女優。

 それは多分私だ。

   

「それとともに隣国では不可思議なことが起こり始めた。初めに違和感を感じ始めたのは冒険者たちだった」

「違和感、かい。マルウィン」

「そうです、上皇陛下。あいさつがおかしい、行動がおかしいなどです」


 討伐から戻った冒険者たち。

 いつもなら門衛が「おかえり」とか「怪我はないか」とか声をかけてくれるのに、ある日突然それが変わった。


「ようこそ、ナントカの街へ ! 」

「ここはカントカの街だよ ! 」

「おいおい、何を言ってるんだ。ここがナントカの街なんて知ってるさ」


 そう言って笑うと門番はポカンとして「あれ ? 」と首をかしげた。

 そのやり取りはその後もずっと続いた。


「街の人たちも知っていて当たり前の街の情報を話し出す。本人も意識していないようだった。それがあちこちの街で起こる。エイヴァンはその情報からあの仮説を立てて、私に調査を依頼したんだ。今から丁度四年前だよ」


 四年前って、私が女学院に入学した頃。  

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