第284話 お祭は継続中

【岸真理子記念バレエ団】ここは岸真理子記念バレエ団のファンが集うスレです【集まれ】

団員さんの情報から、押しに団員さん自慢まで、みんな集まれ!


・団員さんを貶めるような発言は禁止です。

・常識をもって書き込みましょう


42:

 さて、なぜ二幕の報告がなかったのか。

 釈明を聞こう。


43:

 三幕の報告もなかった。

 

44:

 面目ない。

 ただ余韻が・・・。


45:

 なにそれ。


46:

 こう、ぼーっとしてしまったんだ。

 なんだかずっと夢を見ているようだった。


47:

 そうなの。もうキャパオーバー。

 処理能力追いついていかないっていうか。

 正直目に映っていたのがなんなのか、理解できないでいる。


48:

 終わった直後は興奮していたけど、会場でたらフラフラした感じになっちゃったのよ。


48:

 それなら明日書くとか一言あってもよかったんじゃない ?


49:

 あのね、それくらいで勘弁してあげて。

 他のスレもそんな感じ。

 どこも昨日は報告されてなくて、スレ民待ちぼうけ状態よ。


50:

 そうなの ?


51:

 その日のうちにブログにあげるあの人も書いてない。


52:

 あの人も ?

 見てないんじゃなくて ?


53:

 チケット取れたって書いてたから、見にいってるのは間違いない。


54:

 じゃあ落ち着いたところで夜の部の報告をお願い。

 出勤まで三十分だから、できればめっちゃシリーズは止めて。


55:

 では自分から。

 はっきり言おう。

 あの二人、人間じゃない。


56:

 は ?


57:

 だってさ、仰向けの状態からのトゥール・アンレールとかないだろう。

 一体いつ立ち上がっていつ五番ポジションとったんだよ。


58:

 ごめん、ちょっとわかんない。

 仰向けってことはバジルが自殺のふりするところよね。


59:

 トゥール・アンレールってしっかり五番に立って、ドゥミプリエから垂直にジャンプして、空中で一回まわってまた五番に降りる。

 であってる ?


60:

 あってる。

 それを寝た状態から一瞬でやったんだ。


61:

 それとドルシネア姫。

 昼の部ではお姫様だったんだけど、夜は違った。

 あれは実在しない姫。

 ドン・キホーテの夢の中にしかいない幻の姫よ。

 あ、私は昼と夜と両方見てる。


62:

 求めても決して触れることのできない存在。

 たとえるならジゼル。

 精霊になったジゼルに通じる。


63:

 でもジゼルは恋人を守りたいという人間味が必要。

 だから全然違うよ。


64:

 ・・・よくわからないけど、すごかったのね。


65:

 三十二回のグランフェッテ。

 シングルだったのは最初の数回。

 残りはダブルとトリプル。

 時々右手を上げていた。

 三幕よ。

 普通だったら息も絶え絶えよ。


66:

 背面のフィッシュ・ダイブからの片手リフト。

 すごい離れてた。

 よっぽどの信頼関係がなくちゃ、あの距離で任せられるはずがないわ。

 もう客席全体が絶叫状態よ。


67:

 バレリーナのついてるオルゴールってあるでしょ ?

 あんなふうにどれだけ回っても位置がずれない。

 どんなポーズをとっても、絶対重心がずれない。

 不自然なくらいずれないの。


68:

 ジャンプの高さが同じなのよ。

 あれだけの身長差。

 絶対差がある筈なのに、おんなじ高さ。

 彼女どれだけ飛べるの ?


69:

 逆に彼女に合わせなかったら、彼はどれだけ飛べるのかって思った。

 実際ソロパートじゃ一度飛んだらいつになったら降りてくるのかってくらい飛んでた。


70:

 オケの皆さん顔色悪かった。


71:

 後ろ向けないから、指揮者の棒に従うしかない。

 不安だったよねえ。


72:

 あのジャンプはまるで往年の伊藤みどり。


73:

 誰、それ。


74:

 数十年前のフィギュアスケーター。

 女子で初めてトリプルアクセル飛んだ人。


75:

 知らない。

 真央ちゃん世代だもん。


76:

 フィギュアだとジャンプ飛ぶのにかなり待つだろ。

 飛ぶぞ、飛ぶぞ、これから飛ぶぞって。

 伊藤はそれがなかった。

 スーッと滑ってポンっと飛ぶ。

 イーグルからのジャンプなんて、今でもやる選手はいない。

 それくらい飛ぶことに躊躇しなかった。

 なんたってステップは休憩タイムとか言ってたし。


77:

 えっと、フィギュア板で語ってくれる ?


78:

 ごめん。

 つまり体操でもフィギュアでも、ジャンプも回転もまず準備があるだろう。

 体がそれを見せてくれる。

 だけどあの二人、そういう『タメ』がないんだ。

 流れるように飛ぶ、跳ねる、回る。


79:

 よくわからない。


80:

 違和感を感じたのはそこなんだ。

 彼らはどこで筋肉を使っているんだろうって。

 後から物凄い疑問が湧いた。


81:

 私もそれ、思った。

 それにあれだけのジャンプが出来るなら、男性でも女性でもお尻とか足とかにそれなりの筋肉がついているはずなのに、彼らはまるでモデルみたいにまっすぐだった。

 それにあれだけ飛べば足音だって聞こえてくるはずなのに、降りてきた時の音が二人ともなかった。

 まるで体に重みがないみたい。


82:

 そう、それ。

 終わってから自分は何を見たんだろうって不安になった。


83:

 真夏の夜の夢。

 もう二度と見られないかもしれない。


84:

 一度頭を冷やさなかったら語れなかったの。

 待たせてごめんなさい。


85:

 ・・・。

 これは他スレとかブログとかの報告待ったほうがいいんじゃないか ?

 昨日は何か不思議なことが起こった。

 みんな手分けしてあちこち飛んで情報を集めよう。

 手があいてる仲間、任せた。



「随分とやらかしたな」


 皇帝陛下のひきこもり部屋。

 本日は私が『四方よもの王』になって初めての集まり。

 もちろんギルマスもいる。


「な、なんのことですか、エイヴァン兄様」

「しらばっくれるな。昨日の夜の部だ。やりたい放題だったな」


 見に来てたのか、兄様。


「俺も見たが、最初は普通だったのに、二幕が始まったら異様だった」

「お前も来ていたのか、ディー」

「私も見たよ。バレエというか、サーカスか何かを見ている気がした。なにがあったんだい、ルー」

「・・・」


 ギルマスにも見られてんだ。

 理由はアレなんだけど、それを言うとアルの正体がバレちゃうし。

 なんて言ってごまかそう。


「最初のキトリの登場シーンは普通だったのに、バジルが出てからおかしくなったな」


 エイヴァン兄様、バレエ詳しくないんですよね。

 それに舞台どころかコンサートや映画にも行かないっていってたのに。


「えっと、あの、予定外の人が出てきたのでびっくりしてしまって・・・」

「神谷というダンサーからアルに代わったからか ? 」


 ・・・。


「な、え、はい、はいっ ?! 」


 素っ頓狂な声を出してしまう。

 いや、あれ、だよね。

 ベナンダンティで正体バレてるのは私だけだよね。

 どうしてアルが昨日バジルやったってことになるんだろう。


「隠しても無駄だ。あの男子新体操のような軽業、お前たちが毎日練習中にやっていたお遊びだろう。こっち夢の世界だけでだと思っていたが、まさかあっち現実世界でもやれるとは思わなかった」

「・・・」

「言ってみろ。なんでまたあんな悪目立ちするような踊りを踊ったんだ」


 何か訳があるのだろうと睨まれて、私は渋々と昨日の一件を白状するしかなかった。

 兄様たちだけでなくギルマスにまで問い詰められたら、もう沈黙を続けるのは無理だ。


「それはまた、酷い話だね。本番直前ならまだしも、始まってからなんて。ルーの戸惑いもわかるよ」

「悔しかったんです。そうでなくてもいきなりキトリなんてやらされて。テレビは入るし、アルは巻き込まれているし。このまま百合子先生の一人勝ちなんて許せなくて。手抜きじゃなくて全力で踊れば失敗にはならないと思ったんです」


 ディードリッヒ兄様がやれやれという風に頭をふる。


「実際ルーだけを責められませんよ、ギルマス。なんたって知らなかったのはこいつだけで、残りは照明から美術から、スタッフ全員が知ってたって言うんですから。後から聞いてびっくりですよ」

「良く知っているね、ディートリッヒ」


 内部事情に詳しい知り合いがいるんです、とディードリッヒ兄様が言う。


「ただ団員以外のスタッフはルーが承知していると思っていたそうですから、あの状況で冷静さを求めるのは無理でしょう。逆によくぞ立ち向かったというべきです」

「しかしちぐはぐな舞台になったというのは事実だしね。そうだ、ルー。撮影が入っていたね」


 五月にキャスト発表があってしばらくしてから、私のドキュメンタリー番組を撮ることになって、いつも周りをウロチョロしている。


「当然幕間とか終演後もいただろうし、先生との会話も撮られているんじゃないかい」

「あ ! 」


 侍従や侍女などの召使は、同じ部屋にいてもいないものと扱われる。

 どれだけ気配を消すことができるかが優秀な使用人の基準になる。

 実際ダルヴィマール侯爵家の使用人が引く手あまたなのは、他家に比べてその技術が卓越しているからだ。

 

「ドキュメンタリーのスタッフは、撮影対象の自然の姿を撮るために気を配る。随分と優秀な人たちがついたんだね」

「どうしよう。ギルマス、私、余計なことを言ってないでしょうか」

「いっぱい言ってたと思うよ、ルー」


 終演後は僕も開き直ってたしね、とアルが言う。

 そんなアルを気にしてはいけないとギルマスが慰める。


「そちらの方は私が力になれると思うよ。伝手があるからね。不利な編集をしないように頼んでおこう」

「助かります。後は最終公演での演技をどうするかなんですけど」

「「最終公演 ? 」」

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