第87話 猪は猪八戒の子孫ではありません

森の中を走りながらアンシアちゃんを確認する。

 白い光を追っている赤い点は、近づくにしたがって徐々にスピードを落としていく。

 じわじわと彼女を囲むつもりなのだろう。

 その赤い点とは別に青い点が白い点に集まっていく。

 これが私たちだ。

 うねうねと曲がりながら来るのは街道を行く騎士団。

 放射線状に進んでいるのが私たち。


 ♪ ピンポンパンポーン ♪


 合同訓練にご参加の皆様にご案内いたします。

 保護対象と魔物の集団は一里塚の大岩付近で接触する模様。

 騎士団の方々は先を急いでください。

 それ以外の方々は前方の発光物に向かって移動してください。


♪ ピンポンパンポーン ♪


「おいっ ! 時が時だから我慢するが、この後かならず攻撃用の魔法を覚えるんだぞっ !」

「はぁい、チャンスがありましたらぁ」

「でも便利ですよ、兄さんズ。あの光が目印になってアンシアを探さずにすみます」

「アル、お前まで兄様ズ扱いかっ !」

「あ、すみません」


 アルと兄様ズがじゃれているが、みんな足だけは前に進んでいる。

 白い点が止まる。

 赤い点がそのまわりに集まる。

 しまった !

 アンシアちゃんが囲まれた !


「キュウっ!」


 バックの中からモモちゃんが飛び出して並走する。

 モモちゃんもアンシアちゃんが心配なんだろう。

 あちこちから人が集まってくる気配がする。

 あと少しのところでアンシアちゃんの声が聞こえた。


「ルウゥゥゥゥゥッッ !!! 助けてぇぇぇぇっ !!!!!」


 私の妹分が助けを求めてる。 


「はーいっ、いっきまーすっ !」


 モモちやんがピョーンと飛んで一角猪の背中を伝ってアンシアちゃんの元に走る。

 よし、アンシアちゃんはもう大丈夫。

 モモちゃんがいればすぐ襲われる可能性は少ない。

 まずはこの大量の魔物をなんとかしないと。

 電撃は無理だ。

 地面を伝ってアンシアちゃんまで倒してしまう。

 レーザービームはどうだろう。

 でも一本では無理。

 何本もないと大量には倒せない。

 ・・・十本あるじゃん。

 指先に意識を集中させる。

 体の中心からなにか暖かいものが腕に向かって流れていく。

 そうか、これが魔力の流れってやつなんだ。

 一角猪がこちらを振り向く。

 よし、アンシアちゃんから興味がそれた。


「ルー、くるぞっ !」


 エイヴァン兄様が剣を抜く音がする。

 私は両腕を前に出し、走り出した魔物に向け叫んだ。


「くらえっ、フィンガービイィィムッ !!」

「「「はあぁぁっ ?! 」」」


 十指から出た細い光が一角猪を薙ぎ払っていく。

 イメージしたのはケーブルテレビでリバイバル放送していたツタンカーメン似の巨大ロボット。

 祖父母が大好きだったというそれを一緒に見せられたっけ。

 勇壮なイントロと男性コーラスの主題歌が頭の中で響き渡る。

 先頭の魔物集団がバタバタと倒れる。

 致命傷にならなかったのは兄様たちとアルがとどめを刺す。

 私は倒れた魔物を台にして、モモちゃんのマネして一角猪の背中を飛び石のように渡っていく。

 

「アンシアちゃんっ ! 無事っ ?!」

 

 大きな石の前で立ち尽くしているアンシアちゃん。その前にモモちゃんがいて一角猪が数匹倒れている。

 よくやった、モモちゃん。大事な仲間を守ったんだね。

 振り向くとまだ何匹化がこちらに残って鼻息荒く身構えている。

 こいつらもチャーシューにしてやると再び指先に力をこめると、遠くから馬の蹄の音が近づいてくる。


「総員、抜刀っ !」


 騎士団だ。騎士様がやってきた !

 森の方からも大きな声が聞こえてくる。

 あれは警備隊と冒険者の皆さん。

 もう大丈夫だ。

 私は安心して目の前の魔物にビームを浴びせた。



 森の中での一角猪の大量殺戮。

 アンシアちゃんは茫然としていたが、もう大丈夫と言うと私に抱きついてせきを切ったように泣き出した。

 そしてひとしきり泣くと糸が切れたように気を失ってしまった。

 そのころには魔物は退治され街道にきれいに並べられていた。


「大漁ですな。この冬は食卓が潤う」

「まったくです。さすが騎士様方です」

「いやいや、あの冒険者の少女の魔法の素晴らしいこと。伝令を使わずとも一瞬で情報を伝えることが出来る。ぜひ部下に覚えてもらいたいものだ」


 みんな集まってそれぞれの腕や連携を褒めたたえている。

 私もいっぱい褒めてもらった。

 なんたって今回はちゃーんと攻撃用魔法を覚えたもんね。

 

「さて、これを運ぶのに荷車が必要ですな。しかしこれだけの数を運ぶとなると何往復しなければいけないか」

「はーい、はい、はーい。私がやりまーす」


 そうそう、こういう時の為のあの魔法よね。

 一角猪に向かって右手をかざしクルっと手の平を上に向ける。

 すると魔物はフワッと地上2メートルの高さに浮かび上がる。


「「「うおぉぉぉぉぉっ ! 」」

「すげえ、これが噂の浮遊魔法 ?!」


 みんなが感嘆の声をあげる。

 そうだろう、そうだろう。

 使い方次第でとってもべんりなんだよ、これ。


「あとは足を縛った縄を掴んで引っ張るだけです。皆さん、お一人一頭ずつ担当してくださいね、いたっ!」

「調子に乗るなよ。もうすでに色々とやらかしてるんだからな。そら、お前はアンシア担当だ。ちゃんと下宿まで連れてってやれ」


 エイヴァン兄様に殴られた頭をさすりながら見ると、おっとアンシアちゃんも一緒に浮かしちゃった。

 モモちゃんは彼女のお腹の上に乗っている。楽ちんそうだ。


「これより街に帰還する。騎士団は街道を、徒歩の者は新しくできた道を使って戻ってくれ。集合場所は教会前の広場とする。それでは後ほど会おう !」


 新しくできた道。

 はい、そうです。

 私が草刈り魔法で下草刈ったところ。

 ずいぶんな人数でふみならしたので、しっかり道と化している。

 これについても怒られそうだけど、まあ、いいか。

 アンシアちゃんは助けられたし、冬の備蓄食料はゲットしたし、とにかく帰ろう。

 帰ってみんなで祝杯あげるんだ。

 私はアンシアちゃんの服を引っ張りながらアルと並んで歩いていった。

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