第16話 もうすぐ ゴール?
一体どうしてこうなったんだろうなあ。
正直、俺の持ってるフカの最速記録なんてどうだってよかった。
仲間たちがいろいろ言っても、まあ記録なんてものはいつかは破られるもの。それがいつで、誰かなんてわかるもんじゃない。
だから、ちょっとしたイタズラのつもりだったんだ。
少し妨害して、困ってるところを先輩として助けて、頼ってもらって良い気分に浸りたかっただけなんだよ。
んでもって、運が良ければお近づきに・・・って、それがどうしてこうなった。
いつのまにか仲間どころか街をまるごと巻き込んだ大騒ぎ。
俺たちはすっかり新人の小さな女の子を虐める悪人だ。
昨日まで頼りになる冒険者と憧れの目で俺を見ていた子供たちが、今日は目の敵としてにらみつけてくる。
こんなはずじゃなかった。
こんなつもりじゃなかった。
でも、それは言い訳だ。
いまさら何を言ったってとりかえしはつかない。
じゃあ、どうしたらいい?
簡単だ。
最後まで悪人を貫く。
ゴールできるギリギリまで邪魔をする。
そして、絶妙なタイミングでゴールさせるんだ。
ちくしょう。良い先輩になりたかったぜ。
これからの俺の立ち位置は、新人イジメの悪役冒険者だ。
でも、先輩として、イヤミを言いながら彼女が成長出来るようさりげなくアドバイスしていくぜ。
さらば、いい先輩。ようこそ、意地悪なアホ野郎。
何度でも言うぜ。こんなはずじゃなかった。
グッスン・・・。
◎
この街、広い。
王都ほどじゃないよ~とアロイスは言うけれど、三茶から目黒川くらいまでは走ったような気がする。
気がするだけで実際はその半分くらいかもしれないけど。
目的地である冒険者ギルドのある広場はまだかな。
街の人たちは「がんばれ!」「あと少し!」と声をかけてくれる。
邪魔者はもう現れていない。善意の市民とお巡りさんの手で排除されたのだろう。
あとはたくさんのサインの書かれたこの依頼書を、無事にギルドに届けるだけだ。
「よし、広場が見えてきた。もうひと頑張りだよ」
「やったあっ! やっと休める。喉渇いた。お腹空いた」
「終わったら何かおごるよ、楽しみにしてて・・・っゴッ!」
「アル?」
変な声を出してアロイスの気配が消えた。
私は思わず立ち止まり振り向く。アロイスがいない。
目を落とすと道にひれ伏して頭を押さえているアロイスがいた。
「アル! 大丈夫?!」
「おーっと、動くなよ、嬢ちゃん」
倒れたアロイスに駆け寄ろうとすると、頭上から野太い声がかかった。
ゆっくり目をあげると、いかにも冒険者という風体の大男が私を見下ろしている。
「嬢ちゃんの旅もここまでだ。ギルドの受付は暮れ五つまで。あともう少しここで待っていてもらおうか」
「だーかーらー! 一体なんなのよ! なんで私一人にこんな一生懸命に邪魔するのよ。たかだか新人一人、ほっといてくれたらいいでしょ!」
「そういうわけにはいかねぇんだよ!」
男は足をダンっと踏みならした。
「始まりこそ単なる嫌がらせだったが、こちらのあずかり知らぬ間にこの大騒ぎだ。こうなったらもう、やめられない、とまらない。きっちりと勝負をつけないと前科一犯になった仲間たちが浮かばれないんだよ!」
「そんなの自業自得でしょ!」
集まって来た街の人たちから、そうだそうだと合いの手が入る。
男が群衆を一にらみする。
「それで納得できればここにはいねぇよ。俺が出来ることは最後まで邪魔すること。徹底してやらせてもらう。まずはおしゃべりから始めようか」
そう言うと男は私の両手をギュッと握った。
「で、ご趣味は?」
「はい?」
何言ってやがる、この大男。
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