第704話


「さて・・・、と」


 アポーストルと別れ、楽園側の扉に着いた俺。


(結局、追撃は無かったな・・・)


 流石に此の世界と自分達を生み出した創造主を殺したのだから、俺は楽園の創造種達から追撃の覚悟をしていたが、その心配は杞憂に終わったのだった。


「ま、この先は分からないだろうがな」


 長き時を経て再び道が通じたザブル・ジャーチと楽園。

 暫くの間は小競り合いが続く事は想像に易かったし、俺は気合いを入れ直す必要も感じていた。


「・・・良し」


 心配して待っていてくれるだろう家族を待たせたくないと、光の扉へと歩を進めた俺。

 全身を包む光が、俺をザブル・ジャーチへと運ぶのだった。



「着い・・・」

「司ーーー‼︎」

「っ⁈ローズ」


 光が晴れ、視界の蘇った俺の耳へと届いた自身の名。

 声の主は、最愛の妻であるローズのもので、いつもとは違う様子に少し驚いてしまったが、ローズはそんな事はお構いなしに、声の勢いのままに俺の胸へと飛び込んで来たのだった。


「司‼︎司‼︎司‼︎」


 勢い良く連呼される名と共に、ローズの軽く柔らかな肢体が俺へと打ち付けられて来る。


「っぅ‼︎」

「ご、ごめんなさい、司」

「あ、あぁ・・・。いや、大丈夫だ」


 流石にスラーヴァとの激闘の疲れもあり、表面的な傷は治っていたが、安心した事による激痛が全身を走り漏れた声に、ローズは慌てて俺から離れたのだった。


「本当に、大丈夫?」

「あぁ。安心しただけだよ」

「そう?」


 俺の台詞に少し笑顔を見せたローズ。

 俺は間を埋める様に、軽くローズの桃色の髪を撫でた。


「ん・・・」


 気持ち良さそうに、笑顔の流れで眼を細めるローズだったが・・・。


「そうだったわ」

「ん?」


 何かを思い出した様に眼を開け、髪と衣服を整えるローズ。

 

「お帰りなさい、司」

「っ・・・‼︎」


 俺を見上げながら、迎えの台詞を告げてくれたローズに、俺は胸へと熱いものが込み上げて来る。


「司・・・」

「ただいま、ローズ」

「ええ」


 応えた俺に頷くローズ。


「皆んなは大丈夫なのか?」


 然し、単純に喜んでばかりもいられないと、仲間達の安否をローズに問う俺。


「ええ。凪ももう屋敷に戻っているし、皆んなも無事よ」

「そうか・・・、良かった」


 凪と仲間達の無事を確認出来、安堵の息を漏らした俺。


「ディシプルの・・・」

「え?」


 俺のもう一つの家族の住む国の名を口にしながら、少しだけ表情を変えたローズ。

 其れは単純に良し悪しで表現出来るものではなく、複雑なものを感じさせるもので、少しだけ不安になった俺。


「ディシプルの避難していた人達も、皆んな無事らしいわよ」

「ローズ」


 然し、ローズの告げて来たのは、家族の無事を報せるもので、俺は何とも言えない気持ちが込み上げて来た。


「・・・」

「ありがとう・・・」

「ん・・・」


 無言で視線を送って来るローズに、その髪を撫でながら礼を述べると、ローズは再び眼を細めたのだった。


「・・・」

「・・・」


 手を止めた俺に、無言で視線を重ねて来るローズ。


「ん・・・」

「ぅ・・・」


 そのまま、視線を近付けていき、唇を重ねた俺達。


「・・・」

「・・・」

「帰ろうか、ローズ?」

「ええ」


 少しだけ長いキスを終え、頷きあった俺とローズ。

 二人は其の手を取り合い、屋敷へと帰っていったのだった。


 そして、月日は流れ・・・。

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