第697話
「・・・」
「・・・」
限界迄、其の身を沈めた俺とスラーヴァ。
「はぁ‼︎」
「せいぃぃぃ‼︎」
勢い良く一声を発し駆け出す俺とスラーヴァ。
魂だけでも相手に撃ち付け様と地面擦れ擦れを駆ける俺に対し、其の俺の身を貫こうと鼻先を限界迄此方へと伸ばして来るスラーヴァ。
衝突事故を起こしそうな俺とスラーヴァだったが、変な話だが其処は今迄数百、数千合と重ねて来た間柄。
「はっ‼︎」
「かぁっ‼︎」
振り下ろした俺の黒刃に、スラーヴァは手にした白刃を打ち上げて来て、重なる双刃から大気に歪な高音が生じ、鳴り響く残響音が全身の緊張感を増す。
「・・・」
(ん?)
仮面から僅かに覗くスラーヴァの漆黒の瞳に、微かな輝きが見え、俺は条件反射的に腕に込める力を増しつつも、足裏は軽く地面から剥がす様にフラットな感覚にする。
「っ⁈」
すると、突如として振り下ろしていた朔夜を受けていたスラーヴァの力が緩み、白刃が斜めに傾く形となる。
「くっ‼︎」
上半身だけ軽く前のめりになる俺の瞳の端に映ったのは、刺突の構えを取るスラーヴァ。
「かぁっっっ‼︎」
まだ夜の闇が残る朝霧に一閃。
白刃が稲光の様に俺へと襲い掛かるが・・・。
「・・・」
「ぅ⁈」
フラットにしていた右脚を引き半身の形。
白刃の通り道を作ってやった俺の頬に冷たいものを残しながら稲光は虚空を駆ける。
(っ・・・)
拳一つの距離の白刃。
視界の端・・・。
白刃の中に映る自身の横顔に、数百という月日を刻んでなお、妖しい輝きを放つ妖刀の恐ろしさを見た俺。
「・・・」
「・・・」
その間、精々秒の間だっただろう。
打つかる視線の先の其れに、此の機を逃せないと、僅かに柄を持つ右小指にだけ力を込める。
「・・・」
微かに揺れた黒刃の先。
其れを追う様にスラーヴァの漆黒の瞳が僅かに揺れた・・・、刹那。
「はぁっっっ‼︎」
ガラ空きの脇腹に蹴りを放った・・・、筈だった。
然し・・・。
「な・・・?」
「くぅ・・・‼︎」
足裏に伝わる感触は、僅かに柔らかな脇腹の其れでは無く、鍛え上げられた鋼の筋肉の其れ。
眼球だけ僅かに下げると、其処には自身の蹴りを受け止めるスラーヴァの太腿が映っていた。
(読まれたか・・・‼︎)
鋼の其れに打ち付けて、僅かに崩れそうになった足下を整えながら、スラーヴァと距離を取る俺。
「其の手を好むな?」
「そうか?」
読めていたとばかりに告げて来たスラーヴァに、気の所為だろうとばかりに短く応じる俺。
然し、スラーヴァの言う事は事実で、太刀捌きに優れているといえない俺は、基本的に相手の体勢が崩れるなど、至近距離での絶対的優位な状況でしか斬撃を決め手としては使って来なかった。
(まぁ、そもそも其れも含めて剣術だと思うがな・・・)
そんな事を考えながらも、一踏の距離で互いに視線は外さず、次の手を探り合う俺とスラーヴァ。
「此れで・・・」
「・・・」
「どうだ‼︎」
放たれた斬撃を、バックステップで躱す俺。
(通常なら、此処で魔法のカウンターを放つところだが・・・)
魔法を使用出来ない此の状況はお互い様ながら、俺にだけ不利に働いていると感じる。
(まぁ、此れを躱せるのは魔力のお陰で、互いの身体能力だけなら、もう俺は真っ二つだろうが・・・)
スラーヴァの肉体が、元々齢四十を刻んでいる自身のものであった事を棚に上げ、そんな事を考えた俺。
(まぁ、あんなだらしなかった身体を、此処迄の体躯に鍛え上げたのは全部此奴の手柄なんだけど・・・)
「・・・」
「どうした?」
「別に・・・」
若干、悲しくなる事を考え無言になった俺。
スラーヴァからの問いに、素っ気なく応えながら、牽制の斬撃を放つのだった。
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