第675話
此処は真田家隠れ家。
俺はブラート帰還の連絡を受けて、文字通り飛んでやって来たのだった。
「ブラートさん‼︎」
「ああ、司か」
「良かった・・・、無事だったんですね」
「ふっ、まぁな」
グロームとの闘いを終え、ブラートがエルフ族の国へと向かってからそう時間は経っていなかったが、変わらぬ様子に俺は一安心した。
「あれ?父さん、泣いてるの?」
今回の仕事は彼の国で賞金首であるブラートにはかなり危険なもので、俺は実際に彼の無事を目にして、感情が抑えられなくなっていたのだろう。
自分でも気付かずに目尻に涙を溜めていたらしく、それを息子である刃から指摘されたのだった。
「あぁ、そうかもな」
「え?」
「嬉しかったんだよ、本当に。ブラートさんが無事でな」
「・・・そうかぁ」
そんな刃の言葉を否定して強い男を気取っても良かったのだが、そんなものは俺が刃に見せてやれる姿では無いし、俺はそれなら正直な気持ちを素直に示してみると、一度は驚いた様な表情を見せた刃も、何か感じるものがあったのか、俺の言葉を深く飲み込む様にしながら、頷いてくれたのだった。
「ふっ」
「ブラートさん」
「約束をしたろ?」
「えぇ・・・」
「なら、必ず守るさ?」
「はい‼︎」
静かに小さな動作で自身の小指を撫でながら告げて来たブラートに、俺は溢れる喜びを示す様に大きく頷き応えた。
「ちょっと、司」
「ん?どうしたアンジュ?」
そんな男三人の様子に、少しだけ微妙な表情で入って来たアンジュ。
「そんなにブラートばかり褒めてたんじゃ、シエンヌに悪いわよ?」
「え?・・・あ、あぁ」
「・・・」
アンジュの言葉に、その表情の意味を理解し、失念していた事を思い出した俺。
確かに、最終決戦に向けて動いてくれていたのはブラートだけでなくシエンヌも同じ事で、シエンヌはというと静かな様子で俺達の方を眺めていた。
「ありがとうございました。シエンヌさん」
「そんな、取って付けた様な礼はいらないよ」
「いえ、そんな事ありません。本当に助かりました」
「ふんっ」
感謝の言葉は偽りようの無い俺の本心だったが、ブラートが無事であった喜びで、それを伝えるのを忘れていたのは事実。
俺は本当に申し訳なさそうに、シエンヌへと頭を下げた。
「拗ねてるのか?」
「ブラート・・・、アンタねぇ」
「ふっ」
「此れを機会に、本当に一度、上下関係をハッキリとさせておいた方が良さそうだね?」
「それは十二分に理解しているさ」
「どうだかねえ?」
本気で怒っているというよりは、軽い調子のブラートに付き合っている様なシエンヌ。
以前なら、本当に怖さを感じたが、アンジュを通じてシエンヌの人柄が見えて来て、これが本気では無いと理解出来る様になっていた。
「司、そろそろ良いか?」
「え?」
「今回のエルフ族との話に付いてだ」
「あ、あぁ、そうでしたね」
ブラートが無事帰還した事への喜びで忘れていたが、彼はその為に命懸けでエルフ族の国へと向かったのだった。
「ふっ、先ずは此の書簡からだ」
「はい」
ブラートから差し出された書簡に目を通す俺。
「アンタ・・・」
「流石、司ね」
「え?何が?」
書簡な内容を隅から隅迄確認している俺に、横からシエンヌの呆れた様なものとアンジュの感心するもの、二つの声が掛かり俺はよく分からず首を傾げた。
「エルフ族の言葉で書かれているからな」
「あ、あぁ、なる程・・・」
俺の素性をある程度知るブラートは、何でも無い風に二人の反応の理由を示してくれた。
(此の身体は彼女の特別製。俺が意識しなかても此の世界の言葉は理解出来る様に創ってくれているからな)
「凄いや、父さん」
「ん?そうか?」
「へっへっへっ」
俺が書簡に目を通しながら、頭を撫でてやると、刃は気持ち良さそうに目を細めながら、母親譲りの笑みを浮かべたのだった。
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