第674話


「ほんとに仕方のない子だね」

「あぁ、そうなんだ」

「分かったさね。あたしから叱っておくさね」

「助かるよ」


 兄弟の悪戯を見つけた子供の様に、ジェアンにラプラスと梵天丸の行いを告げた俺。

 情け無くも感じなくは無いが、彼奴と無駄に揉める必要も無いのだ。


(まぁ、ラプラスはともかくとして、梵天丸に悪気は無いのだろうが・・・)


 転生をすると考えると、グロームの事を死者と呼んで良いのか分からないが、元来魔物である梵天丸に、人間と同じ様な死者への冒涜になるという感覚は無いだろうし、グロームの力がどの程度か正確に分かって無い以上、俺に倒された時点で戦力になると思って無い可能性もある。


(そもそも、転生への一連の流れが分からないし、ああいう事をすると転生が遅れるとも言い切れないし、何より何もしなくてもグロームが決戦に間に合うかは微妙なところだし・・・)


 ただ、それでも見付けてしまった以上は、正しておく必要があると告げ口の様な形を取ったのだった。 


「それと、ペルグランデの件なんだが・・・」

「良いさね」

「本当か⁈」

「本当さね。ただ、あたしはもう追放された身、どの程度の効果があるかは分からないけどね」

「いや、助かるよ」


 ジェアンと巨人族の関係を考え、申し訳無い気持ちが大きくて、頼み辛い内容だったが、ジェアンは気にした様子も無く聞き入れてくれたのだった。


(追放されているとはいえ、見ず知らずの存在からグネーフの情報を聞くのと、ジェアンからとでは明確な差があるしな)


 別に巨人族に協力して欲しい訳では無いし、塔での活動を邪魔さえされなければ問題無いのだ。


「それで、勝てそうかい?」

「さてな?」

「男の子はもっと胸を張って勝つと言えばいいのに、司は奥ゆかしいんだね?」

「そういう訳じゃ無いがな」


 実際、復活した龍神結界・遠呂智が創造主に通用するのかという疑問も無くは無いし、そもそも其処に着く迄の楽園の中に強力な存在が居るかもしれないのだ。


「其処のところどうなんだ?」

「くくく、何がだ?」


 後ろを振り返らずに掛けた声に、ローズとの話を終えたらしいラプラスはそのまま問い返して来た。


「ローズは?」

「外でアナスタシアと何やら話しておるわ」

「そうか」


 此処の連中の人族に対する恨みも気になったが、アナスタシアと梵天丸も居るし問題は無いだろう。


「もう、良かったのかい?」

「うむ。良い機会になった」

「そうかい?良かったね」

「・・・まぁな」


 ジェアンの言葉を噛み締める様に静かに応える様子は、此奴にとってはローズの来訪と邂逅は良き機会だったという事だろう。


「それで?」

「あぁ。楽園の連中の立ち位置と力だ」

「なるほどな」

「実際のところ、どうなんだ?」

「立ち位置というのなら、やはり貴様にとっては敵が多いだろうな」

「・・・」

「まあ、我も彼の地より去って幾千の刻を刻んで来たのだから、連中が自省をしていても不思議では無いが」

「あるのか、そんな事が?」


 此奴も一応楽園の創造種な訳で、身内贔屓的な発言にも聞こえたので、少し訝し気な表情で問い返したが・・・。


「それ程に刻は人を変えるし、それだけの刻が経ったのだ。現在、楽園に残る連中は結局は守人達に協力しなかった者達であり、既に貴様らからすれば無限にも近い刻を楽園の中のみで過ごした者達なのだ」

「まぁ・・・、な」


 ラプラスの言う事も説得力が無い訳では無いし、別に此処で此奴が何と言っても、俺は連中の事を信用する気は無いのだし、意見を戦わせる様な事をしても無意味だろう。


(一応、情報として知っておけば良いんだ)


「力はどうだ?ナヴァルーニイ位の奴はどの位居るんだ?」

「くくく、殆ど居らぬ」

「え?」

「奴程となると、片手を越えるか如何かだろう」

「そうか・・・」


 殆どと言ったラプラス。

 確かに五人前後なら殆どかもしれないが、その全てが敵となると楽勝ともいえないか?


「何を不安になる必要がある?」

「え?いや・・・」

「奴も決して脆弱では無いが、貴様と比べれば雲泥の差があろう」

「・・・」

「何しろ、あの始祖神龍を倒したのだからな」

「っ‼︎」

「くくく、あれ程の力を持つ者は、創造主以外には居らんからな」

「そうか・・・」


 ラプラスはそう言ったが、正直なところあの魔法を連発するのは、俺の身体もそうだが、楽園自体が持つのかという問題もある。


「安心するがいい」

「ラプラス?」

「貴様が勝てねば世界が終わる。敗北すれば皆が滅びる。それだけの事だ」

「・・・」

「くくく」


 態となのか、此奴なりのエールなのかは分からないがそんな事を口にしたラプラス。


(詰まりは、楽園の連中は力で思い知らせれば、反抗して来る程の気概も信仰心も無い連中の集まりという訳か・・・)


 それならば、俺の選んだ道は間違いでは無いと、一層決意を固めたのだった。

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