第662話
「此れは・・・」
辿り着いた先は、此処に来る迄に大地に刻み込まれていた無数の亀裂が嘘の様な平坦な大地が広がっていて、余りに穏やかな爆心地の様子に、俺は来た路を振り返ってしまった。
「・・・っ」
其処に鎮座するのは、爛れる様に剥がれたシルクの様な柔靭な甲殻と、未だ黒曜石の様な輝きを放つ鱗。
其の奥には、強固な護りを誇る牙城の土台となっている様な骨格が、先程の衝撃に耐え、元のままであろう姿で遺っていた。
「・・・」
不謹慎かもしれないが、ある種の神々しさも感じる其の姿に、俺は静かに闇の翼を畳み地上へと降り立った。
「ん?・・・廃魔石か」
足裏に当たった石塊の様な感触に、視線を落とすと其処には黒光とは異なる、輝きを失った黒い魔石が落ちていたのだった。
「あれ程の衝撃に耐えるのか・・・?」
此れもある意味では生命を象るものなのだから、しぶとい生命力を示しても不思議では無いが、其れでも何処か底冷えを感じる様な怖さを感じた。
「どうするかな・・・」
チマーは其の身に魔石を持たない神龍だが、其の素材は最上級の物だろう。
此れを此処に残して置けば、守人達の手に渡る事になる。
「でも、遺骨になる位のものは、子供達に渡してやりたいしな・・・」
そもそも、子供達の此の先も考えなければならないし・・・。
「問題は山積みだなぁ・・・」
ただ、じっとしていても仕方ないし、何よりそろそろ子供達を出してやらないと流石に可哀想な為、俺は取り敢えず全てを持ち帰ろうと、チマーの遺体に触れた・・・、次の瞬間。
〈ふふふ・・・〉
「っ⁈」
〈お困りの様ですねぇ・・・。お助けしましょうか?〉
突如として響き渡る不快感を形取り、其れに色を塗ったかの様な声。
流石に誰だなどと間の抜けた問い掛けをする事は無く、其の声の主を理解した俺が・・・。
「ルグーン‼︎」
〈ふふふ、はい。先程振りですねぇ、真田様?〉
驚きも疑問も置き去りにして、憤慨を打つける様な声色で其の名を叫ぶと、其奴は態とらしく余裕のある態度で応えて来たのだった。
(何処に・・・?)
ルグーンの声は、直接俺の耳に語り掛ける様に聴こえて来て、其の正確な位置が掴めず、然し、其れを気付かれる訳にもいかず、俺は心の中だけで疑問を呟いた。
〈ふふふ、お探しですか?〉
「・・・」
然し、ルグーンも其れに気付かない程、間の抜けた奴でも無く、直ぐに俺の疑問に気付いたのだった。
〈早く見付けて頂か・・・〉
「っ⁈」
ルグーンの発言の途中で、崩れ落ちてくるチマーの甲殻。
俺は地面に落ちて来た其れを見て、元々存在したであろう位置を見上げると・・・。
〈ふふふ、此れは此れは・・・〉
「まさか・・・⁈」
〈ええ。そうですよ?〉
骨格と牙だけの遺った口元が動き、其れに共鳴する様に響き渡るルグーンの声。
「でも、チマーは・・・」
〈私は確かにあの方より矮小な存在です〉
「・・・」
〈然し、幾千の刻で研鑽して来た、魂を扱う術迄劣る事はありませんよ〉
此奴がどんな手段であの衝撃を耐えたのかはどうでもいいのだ。
〈ですが、当初の予定ですと完全体を手に入れられる筈だったのですが〉
「お前の予定なんて、どうでもいいんだ‼︎」
〈ふふふ、非道い方だ〉
「雨‼︎」
相変わらずのルグーンの揶揄う様なセリフを無視し、俺は自身に鞭を入れ、チマーの遺体ごとルグーンの魂を滅ぼそうと、漆黒の雨を降らせるが・・・。
「な・・・?」
其の巨体を降り注いだ漆黒の雨は、今にも崩れ落ちそうな身体に傷を付ける事は出来なかった。
〈ふふふ、闇の因子は・・・〉
「まだ、残っていたのか・・・」
〈はい〉
殆ど、骨格だけになった巨体の何処に其れが有るのか疑わしかったが、雨が通用しない事が其れを証明したのだった。
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