第646話
現状はチマーにとっても不測の事態だろうし、普通に考えれば協力した方が良いのだろうが・・・。
(子供達という重荷を背負っている俺と、其れが足枷になるチマー)
少なくとも子供達を諦めない限り、俺は戦力にはなる事は出来ない。
それに、スヴュートの因子を使ったルグーンに、どの程度迄の闇の力が効果無しなのかは分からないが、肉体が見当たらないという事は全く効果が無い訳では無いだろう・・・。
ただ、一つ気になる事は・・・。
(チマーはスヴュートの因子だけでは自身の力に耐えれないと言ったし、其れは間違いは無いんだろう)
チマーを別格とする七神龍の中でも、最弱といわれるスヴュート。
奴と闘った当時は信じられなかったが、正直現在の俺なら無傷で奴を倒す事は難しく無いし、其の話は真実だと理解出来た。
「なら、何故・・・?」
〈ふふふ、気になりますか?〉
「ルグーン‼︎」
俺はルグーンとチマーから既に十分な距離を取っているのに、ルグーンの声は直接俺の頭に刻まれる様に聞こえて来て、俺は一瞬自身の身体を乗っ取られているのはではと感じてしまう。
〈ご安心下さい。此の力の事ですよ?〉
「・・・」
〈あの奇人の創りし物ですよ〉
はじめ、全く信じられない事を口にしたルグーンに俺は応えなかったが、ルグーンは気にせず続けたのだっ。
「奇人?ムドレーツの事か?」
〈ふふふ、ええ〉
確かに、スラーヴァが終末の大峡谷にスヴュート狩りに現れた時に、奴も同行していたらしいが・・・。
(それでも、奴にチマーの力に対抗出来る程物を創れるのか?)
〈よく分からない男ですがねぇ〉
「・・・」
〈楽園では偏屈者で通っていたのに、此の世界に降りてからは、妙に下等な起源種に学ぶ様な姿勢を見せていましたね〉
「感心じゃないか?そのまま、お前達と手を切れば最高だったのだがな」
〈ふふふ、非道いお方だ〉
当然の事を当然として語る俺に、不満そうなルグーン。
「なるほどね」
「チマー?」
ルグーンの言葉に何か思い当たるところでもあったのか、納得した様な声を上げるチマー。
「此の地上の人族達は既に歴史から守人達との闘いは失ってしまっているけど、きっと遺伝子レベルでの奥底深くには危機感を刻み込んでいるんだよ」
「それは・・・」
「楽園の住人達と地上の人族とでは外見的な違いはそう無いけど、身体的な部分での差は大きいからね」
守人達が鳴りを潜めてから永い刻が経ち、楽園の住人達から狩りの対象にされていた過去を失ったザブル・ジャーチの住人達・・・。
「魔力で優れる楽園の住人達に、持たざる者達なりの抵抗として、数々のマジックアイテムを生み出していったんだね」
「なるほどな」
それでも、悠久の刻に味わっていた屈辱を心の中の奥底には伝え続けていて、いつの日か迫る危機に対して防衛手段を準備していたのか・・・。
(まぁ、勿論チマーの語った様な内容だけでなく、単純に欲望に従順な部分もあるだろうが・・・)
〈其の素晴らしい進化の結果が此の大地に、此処に集められる捨て子達ですか?素晴らしいですねぇ?〉
「そうだね」
「・・・」
態とらしいルグーンの言葉に俺は応える気にはなれなかったが、チマーは思うところはあるのか、其れ自体を否定する事はしなかった。
〈まあ、そのお陰で此の結果を得ているのですから、とりあえずは感謝しておきますかねぇ〉
「そうしなよ?そのお陰で、キミは今迄に味わった事の無い苦しみを味わえるんだから」
〈ふふふ。非道いお方だ〉
俺なら応える事もせずに逃げ出しそうなチマーの台詞。
然し、ルグーンは余裕の態度で其れに応えるのだった。
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