第636話
「此れは此れは、お久し振りです」
「・・・」
俺と同じ様にチマーへと挨拶をしたルグーンだったが、チマーは其れに応える事はせず、静寂を増してルグーンを見据えていた。
「つれない御方ですねぇ」
そんな、俺がされたなら震えてまともに口を動かす事も出来なくなりそうなチマーの態度。
然し、ルグーンはそんなチマーにも構わず、流暢に挑発的な台詞を吐いていた。
(だけど、何故チマーを・・・?)
此処に来る理由としては、チマーくらいしか無いのは分かるが、自殺志願くらいしか理由が思い浮かばない。
「自責の念にでもかられて、自決の協力でも求めに来たのか?」
「ふふふ、非道い方だ」
どうやらそんな都合良い話では無い様だが・・・。
「本来なら、真田様に其れを返して頂きたいところなのですが」
「・・・」
「ふふふ。やっと意味を理解して頂けましたかねぇ?」
「お前のものでも無いだろう・・・」
以前から、俺に何かの返還を求める様な台詞を吐いていたルグーン。
確かにルグーンの言う様に、彼女と出会い、自身の身体の秘密を知った今なら、其の言葉の意味は理解出来たが、そもそも、此の身体はルグーンのものであった事が無いのだ。
「手持ちは後どれくらい有るんだ?」
「ふふふ、流石に、もうまともな物は有りませんよ」
「・・・」
「そもそも、楽園から特別な魂を受け入れられたのは、片手で足りる数でしたし・・・」
「特別な魂・・・?」
ルグーンの言葉に引っ掛かる部分を感じる。
「お前の力は、魂を自由に操れるんじゃ無いのか?」
「当然ですよ。魂とはヒトを形成する重要な要素。移すべき器と魂が適合出来ないものなら魂の操作は出来ませんよ」
「・・・」
ルグーンの言う事が事実かは分からないし、何より制限が無ければ此奴の能力は最強ともいえるものの為、其れを易々と信用する事は出来なかった。
「事実ですよ」
「さてな」
「例えば、ナヴァルーニイ様の魂などは、其れに応えうる身体が無ければ、此方の世界へと降りて来る事は出来ませんので」
「・・・」
俺も知っている分かり易い名で、自身が嘘を吐いていないと示して来たルグーン。
「真田様もご自身の事でお分かりでしょう?」
「俺が?自身の?」
「ええ。真田様程の御方の本来の身体には、それなりの魂で無ければ応える事が出来ないのです」
「・・・」
「よって真田様の魂を本来の身体から追い出す為には、あの方の魂しか無かったのですよ」
「なるほどな・・・」
到底納得出来ない内容だし、過去の恨みが無い訳では無いが、現在の此奴との闘いは子供達の未来の為のもの。
過去の件で言い争っていても仕方が無いのだった。
「ですが、愚かな方でしたねぇ」
「何だと?」
「彼女の事ですよ?」
「・・・」
「己が存在という絶対的なものよりも、其の性と想いなどという不確かなものに執着し、無意味な終わりを迎えるなど、愚かとしか言えないでしょう?」
此奴がどういう考えでも構わないし、其れを否定する事も正す事もする意味は感じなかった俺だが・・・。
「黙れ、ルグーン」
「ふふふ、お怒りですかねぇ?」
「ただ、不快なだけだ」
「ふふふ、非道い方だ」
一つもそんな事は思っていないだろうルグーン。
そんなルグーンへと掛かろうと構えた俺だったが・・・。
「何してるの、司?」
「っ⁈」
「邪魔しないでよね?」
「チマー・・・」
其れは、俺とルグーンのやり取りの間中、黙っていたチマーによって遮られたのだった。
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