第634話


 此処はチマーの住処から少し離れた先。

 百人近くは居るだろう子供達は全員参加で、遠足兼新入りの子達の家族捜索に付き合っていた。


「ママーーー‼︎」

「こっち?あっち?」

「・・・」


 反応は三者三様で母親を声を枯らしながら呼ぶ子や、同行の歳上の子に辺りを案内して貰いながら探す子。

 そして、集中してまさに血眼になって周囲を見回している子。


(同行している子達の反応にも差があるな・・・)


 新入りの子達の家族捜索を手伝う子達や、少し離れたところで家族捜索を行う子達に複雑な視線を送っている子達。

 そして、ピクニックを楽しむ様に辺りに駆け出した子達だった。


(手伝っている子達からすると自身も通った道って事だろうし、視線が複雑なのも未だ家族に対して思っている事があるのだろう)


「ピクニックを楽しんでる子達は・・・」

「親になんて会った記憶が無いからね」

「チマー・・・」


 俺の心の中を読んだ訳では無いだろうが、答えを続けたチマー。

 此処の子達は殆どがそうで、新入りの子達が少数派なのだろう。


「あの子達のママは、ボクなのさ」

「そういう事だな」

「じゃあ、行って来るよ」

「あぁ」


 遊んでいる子供達からの手招きに応え、其方へと向かったのだった。


「俺は警戒をしておくか・・・」


 俺はチマーとは背を向け、逆方向へと進んで行ったのだった。



「あ〜あっ」

「おう、レイナ」

「うあっ、うあっ、うあっ」


 俺が巡回から戻ると、口元にジャムをつけながらサンドウィッチを食べているレイナ。


「ごめんね、司。皆んな我慢出来なかったから始めてるわ」

「構わないよ」


 俺はモナカに応えながら昼食を始めたのだった。


「昼からは何処を探す?」

「うん・・・」

「どうしたんだ?」

「もう・・・、いいかな」

「「ええーーー‼︎」」


 昼食後、家族捜索を再開しようとした子の中で、一人の子が捜索の終了を口にすると、残りの二人は大きな声を上げていた。


「何でだよっ⁈」

「諦めるのか⁈」

「うん・・・」


(あの子は確か・・・、午前中に一人で血眼になって集中していた子だな)


 性格的に自分との対話を行うタイプなのかもしれないし、そうなると攫われてからの流れと、現状と向き合って、家族との再会は難しいといち早く理解したのだろう。


「・・・ママァ」

「俺はまだ続けるぞ‼︎」

「っ」


 そんな子に引かれる様に少し弱気になった子に、もう一人の子は自分とその子に気合いを入れる様に声を張り上げた。


「いいよ。頑張りなよ」

「・・・」


 そんな様子にも、既に答えを出したのだろう。

 捜索を諦めた子は、二人の気持ちの邪魔はしない様な声を掛けていた。


「行くぞっ」

「う、うん・・・」

「俺達も手伝うぞ」

「ありがとなっ」


 小さな掌で、もう一方の其れを引き出発しようとした男の子に、チマーの子達が手伝いをかって出た・・・、次の瞬間。


〈ふふ、其れは無駄な努力というものかと・・・〉


 辺りに響き渡った内容もだが、其の声色そのものが癇に障る声。


「っ⁈誰だ‼︎」

〈ふふ、此れは此れは、ご無沙汰しております真田様〉

「貴様は・・・‼︎」

〈ふふふ・・・〉

「ルグーン‼︎」


 此奴の声を聞き間違える事は無いだろう。

 そうして、其の名を叫んだ俺に応える様に・・・。


「はい」

「っっっ⁈」


 後方から聞こえて来た、囁く様ながらハッキリと耳に届く声。

 其れに対して、後ろを反射的に振り返ると・・・。


「此方に・・・」


 其処には、声の主であるルグーンが佇む様に、静かに立っていたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る