第624話


「う〜ん・・・」


 降り立って暫く歩いてみたが、其処には漆黒の大地が無限に等しく広がっていて、途方に暮れてしまう。


「空から探るのもありなんだけど、地上が完全に漆黒・・・、だからなぁ」


 上空から視界の続く限り探ってはいたのだが、一面に広がる漆黒に何の情報も見つけられず、仕方なく俺は地上へと再び降りて来ていたのだった。


「彼奴は本当に情報を持っていない様だったし・・・」


 以前にアッテンテーターにチマーを伴ったアポーストルだったが、直接の面会の手段は持っていないらしく、その時もチマーからの接触だったらしかった。


「せめて、地上で些細な事にも気付ければと思ったが・・・」


 何の情報も得られない状況と、無限に湧き上がる異質な闇。

 日本に居る時から夜型だった俺も、そんな言い様の無い不気味な現状に、ついつい独り言が増えていた。


「其れに廃魔石な・・・」


 歩みを進める度に足裏から伝わってくる、土や石とは異なる不思議な感触。

 最初に其れに驚き視線を落とすと、確かに其処には色を失い輝きをも失った魔石が無限とも思える程に転がっていたのだった。


「気が滅入るなぁ・・・」


 おまけに足を大地に着く度に不気味な音が響き、俺は肩を落としながら歩を進めるのだった。



「魔力じゃ、チマーを探れないからなぁ」


 肩を落としながらも暫く歩を進めていると、いよいよ空迄も漆黒に染まってしまう。


「彼奴は子供達と一緒に居るらしいが、その子達も魔力に優れない子達らしいし・・・」


 チマーが探られる様な間の抜けた真似をするか疑問だが、子供なら不意に魔力を発散させる事も期待出来る。

 そう思いながら、集中力は切らさない様に進んでいた。


「ふぅ〜・・・」


 そんな状況の為、俺の疲労はかなりのものになっていて、時間も時間の為、今日の探索は諦め様と思い始め、野営の準備に入る体力を取り戻そうと、アイテムポーチから飲み物を取り出し、口をつけた・・・、瞬間だった。


「っ⁈・・・ぅ⁈」


 突如として肌に伝わって来る強大な魔力。

 其れに驚いた俺は、器官と鼻の奥へとお茶を流し込んでしまい、一瞬呼吸の仕方が分からなくなってしまった。


「っ・・・、はぁ〜・・・」


 軽く咳き込んだ後、大きく息を吐き、通常の呼吸のテンポを取り戻した俺。


「な、何だ⁈此の強大な魔力は・・・?」


 俺の肌に届き、全身へと伝わっていった魔力。

 其れは、此れ迄俺が激戦を繰り広げて来たどの敵達よりも強大で、魔力量だけなら俺が知る中で最大であろう凪にも届きそうなものだった。


「こんな・・・。いや」


 一瞬、チマーのものかと思ったが、其れにしては弱いと感じる。


「それに、何となくだが感じた事のある魔力にも思えるが・・・」


 不思議な事に伝わって来た魔力は、その強大さに対する驚きで気付けなかったが、何処かで感じた事のあるものに思えた。


「何処だ・・・?」


 強大な其れと、浮かんだ疑問に二の足を踏んでしまう俺だったが・・・。


「いや‼︎」


 素早く首を振り、全神経を集中し、其れの発信源の詳細を探る。


(異様な事態だが、罠でも乗るしか無いともいえる)


 到着からそう時間は経っていないが、それ程に現状は動きが感じられず、焦りの方が勝っていた。


(そもそも、此処をチマーが縄張りにしている以上、あまり長時間彷徨いて怒りを買うのは交渉に良くない影響が出るだろうしな)


 覚悟を決めて闇の翼を広げた俺。

 感じる魔力を見失わない様に、全力で空へと翔け出した。



「・・・っ⁈」


 魔力へと翔け辿り着いた先。

 地上を見下ろした俺は、発見した其れに言葉を失ってしまう。


「何で・・・、此処にあれが?」


 其れは穏やかな振動を発しながら、瞳の様な二つの光を此方へと放ち、懐かしい排気音を響かせていた。


「俺の車・・・」


 漆黒の大地の上に鎮座する此の世界では異質な姿を持つ其れは、俺が此の世界に召喚された直前迄乗っていた愛車なのだった。

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