第607話
「え?免許皆伝?」
「うむ。そろそろ、いい頃合いじゃろうて」
「本当に⁈」
興味を示した凪へ、冒険者時代の話をしてやっていたケンイチパーティ一同。
そんな昔話の中、ポーさんからの突然出たルチルに対する免許皆伝の話。
そんな事を考えてもいなかったルチルは、驚きの表情を浮かべながら、身を乗り出した。
「本気ですか?お師匠様?」
「勿の論じゃ」
「・・・」
此方も突然の事に、その驚きが表情に出てしまっている、現在道場を実質的に任されているユンガー。
そんな様子にもポーさんは、いつもの妙な調子で返した。
「本当に良いの?師匠?」
「う〜む・・・」
そもそも、伝えられたルチルが一番信じられない為、しつこく再確認すると、ポーさんは自身で言い出した事にも拘らず、珍しく考え込む様に、真面目な表情で唸り出した。
(まぁ、これすらも態とという事もあるが・・・)
そんな事を思いながら、ポーさんの続きを待っていると・・・。
「儂とて、もう歳じゃしな。そう先も長くあるまい」
「師匠っ。そんな事、言わないでよ」
「優しい娘じゃのお」
「・・・」
「そんな顔するでない。儂とて明日、明後日に逝く訳ではない。ただ、正しい眼を持つ内に、お主の力を判断しておきたいのだ」
「師匠・・・」
「お主は、儂の最後の弟子じゃしな」
「・・・分かったよ」
(一つの流派の頂点に立つ者として、責任ある決断なのだろうなぁ)
寂しさを感じる発言だが、ポーさん的には現実的な判断なのだろう。
ルチルも其れに応える様に、力強く頷いたのだった。
「で・・・?」
「ふむ?何じゃ?」
それから、約十分後・・・。
そのルチルと対峙する俺は、ポーさんへと疑問の声を上げていた。
「何故、私が試験の相手を?」
「う〜ん・・・」
今度はいつも通りの軽い調子で唸り声の上げるポーさん。
ただ、俺の疑問は当然のもので、ポーさんは歳の為に無理だとしても、試験の相手を務めるのに相応しいのはユンガーだろうし、勿論ケンイチだっているのだ。
「そんな中で・・・」
「お主の闘いも見てみたくての」
「ポーさん」
「リョートとアゴーニとの闘いの時には見れんかったしの」
「・・・」
「言ったであろう?正しい眼を持つ内に判断したいと」
「・・・」
「現在、そして次代を築いていく者達の力を、此の眼で見てみたいんじゃ」
口調からは緊張感を感じないが、内容自体はかなり真面目なもので、俺は話を聞き入ってしまい、答える事を忘れる形になっていると・・・。
「やってやれ」
「ケンイチ様・・・」
雑に扱っているとはいえ師匠に当たるポーさんの願い。
ケンイチは落ち着いた調子ながら、有無を言わせない表情で此方を見て来た。
「分かりました」
流石に世話になって来た此の男と、リョートとアゴーニ戦後の借りのあるポーさんの願いとあれば、断る訳にはいかない。
何より・・・。
「そういう訳らしい」
「うん。相手にとって不足はないね」
「・・・そうか」
友でもあり、これまた世話にもなって来たルチルの夢に向けての一歩となる試験。
その手伝いを出来るのなら本望といえる。
「手心を加えるでないぞ?」
「分かってるよね、司?」
俺へと忠告して来るポーさんと、構えながらも確認して来たルチル。
「勿論だ」
そんな二人に短く応えながらも、俺はアイテムポーチから完全に手に馴染んだ、訓練用の木製の剣を取り出し、構えたのだった。
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