第606話


「それで、どうだったんだ?」

「焦るでない、焦るでない」

「・・・」

「ふむふむ・・・」

「・・・」

「ほおほお・・・」

「さっさとしろ‼︎」

「年寄りを焦らせるでない」

「あらあらぁ、ふふふ」


 ケンイチとポーさんのネタの様なやり取りに、嬉しそうに微笑むリール。

 それは、ヤンキーが年寄りを叱りつけるという一見すると異様な光景。

 然し、叱られたポーさんはのんびりとした様子で、何より弟子であるユンガーは少し離れた位置で黙って見守っている事から、此れがケンイチパーティの日常なのだと理解出来た。


「ったくよぉ・・・」

「ふふふ、ダーリン?落ち着いて・・・、ねぇ?」

「・・・」

「そうじゃ、そうじゃ」

「・・・ちっ」

「ふふふ」


 舌打ちをしながらも折れたのはケンイチの方で、そんな様子にポーさんもケンイチを揶揄うのに飽きたのか、落ち着いて話をする為に腰を下ろしたのだった。


「結論から言えば、リョート、アゴーニの二頭はこの島に帰還していたの」

「そうですか」

「ふむ?そう、不満気でもないの?」

「えぇ。奴等も果たすべき宿命を持っていますしね」

「宿命・・・、の?」


 何処か興味深そうにする感じもする表情で、問い掛けて来たポーさん。

 そんなポーさんに、俺は神龍に付いてしっかりと説明した。


「なるほどの・・・。ザヴィッツシャーニイ山脈の先には、そういった者達が住んで居ったのか」


 ザヴィッツシャーニイ山脈とは、終末の大峡谷に徒歩で向かう際に通る道。

 ポーさんは、自身の膝を叩いていた。


「ポーさん?」

「うむ。何者かがあの先を縄張りとしている事は気付いていたが、其れがそういった者達とは知らなんだ」

「そうでしたか」

「いや〜、迂闊に近寄らんで正解じゃったの。儂、グッジョブ」


 どうやら、過去には終末の大峡谷への旅を考えていたらしいポーさん。

 歳を考えると、少し呆れたくもなる言葉で、自賛をしていた。


「じゃが、そういう事なら帰還も理解出来るの」

「え?そうですか?」

「うむ。話を聞いた感じでは、あの二頭は神龍の中でも、特に人に似た営みを行なっている様じゃし、決戦を前に、思い出の住処に戻っても不思議はあるまい」

「なるほど・・・」


 確かに此処は、かなり昔から永久凍土に炎の雨が降る島だったと聞いているし、奴等は此処で生活が長かったのだろう。

 何より、此処はアゴーニがアヴニールを身篭った場所。

 他に子が居るかは分からないが、あの時アゴーニはお腹のアヴニールを守る様にしていたのだし、やはり特別な思いがあるのだろう。


(そうなって来ると、余計に俺は出会したくは無いが・・・)


「安心せい」

「ポーさん?」

「あの二頭は、お主と揉めたくは無い様じゃ」

「どういう事ですか?」

「偵察に向かう途中だが、此処の者が二頭が居なくなって作った家や畑等は凍結していなかったんだ」

「え⁈ユンガーさん、本当ですか?」

「ああ。器用な事をするな」


 ポーさんの言葉に、疑問の声を上げた俺。

 そんな俺にユンガーは、驚愕の事実を告げて来たのだった。


「そんな事が・・・」

「信じられないか?」

「いえ、そういう訳では・・・」

「強者は強者を知るという事じゃの」

「・・・」

「そういった宿命を背負っているなら、お主との闘いより、先ずは、其方を優先したという事じゃろう」

「でも、俺は奴等の子を奪った形ですし・・・」

「其れは、あの二頭がお主の力を認め、子を託すに足ると判断したのじゃろう」

「・・・」


 如何にも、そんな都合の良い考えが出来なかったが、大魔導辞典には奴等の紋章も刻み込まれたのだし、力は認めてもらったのだろう。


(とりあえず守人達との決戦が終わる迄は、アヴニールを奪還する事しないつもりだろうか?)


「堂々と構えておけ」

「ユンガーさん」

「弱気な態度が、逆に二頭を不安にさせるぞ」

「・・・そうですね」


 ユンガーの促す言葉に、俺は静かに頷いたのだった。

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