第602話
「助かったよ、司」
「日頃、ルチルには世話になってるんだ。この位、お安いご用だよ」
「ふふ、ありがとう」
ミラーシから屋敷に戻ると、学園から帰宅していたルチル。
用件はザストゥイチ島へと、師匠であるポーさんに会いに行きたいとの事だった。
「でも、ポーさんは未だに国には帰ってないんだな?」
「うん。この間ランコントルの道場に手紙を送ってみたんだけど、島に残ったままだってさ」
「そうか。まぁ、今は住みやすい島になってるしな」
「そうだね〜」
彼の地は、俺達がポーさんと出会った当時は永久凍土に覆われ、炎の雨が降る地獄を再現した様な島だったが、現在では豊富な島特産の果実や野菜が採れる、地上の楽園を体現する島へと生まれ変わっていた。
「ルチルお姉ちゃんの師匠かぁ」
「興味あるのかい、凪?」
「うん」
ルチルの言葉に頷く凪。
(ルチルお姉ちゃんねぇ・・・)
通常なら、母であるローズと同級生のルチルに対しては、おばさんが正しい呼び方なのだろうが、其処はルチルの厳しい教育で正されていたのだった。
(まぁ、模擬戦等で無詠唱主体の凪と対等に渡りあえるのは、俺以外ではグラン、アナスタシアに、ルチルくらいのものだからなぁ)
その中でも、ルチルは凪との対戦で相性は良く、凪からすると一目置ける数少ない大人なのだった。
(魔法に対しては、武闘纏命を用いて圧倒的な身体能力を発揮し攻めるのが、ある意味で最強の対抗策となるからなぁ)
「ポーさんはケンイチ将軍の師匠でもあるんだよ」
「うっ、お爺ちゃんの?」
「そうだよ〜」
「・・・」
ルチルから出たケンイチの名に、露骨に嫌そうな表情を浮かべる凪。
(その表情をケンイチの前でやると、落ち込んでウザイから気を付けてくれよ)
そんな事を心の中でだけ思った俺。
「しょうがないわね」
「ママァ・・・」
「お爺様は凪の事が大好きなのよ?」
「分かってるけどぉ・・・」
ローズは大好きな父をフォローする為に、凪に言い聞かせる様にしたが、当の凪には響かない様で・・・。
「ふふ、彼は一見しただけでは無頼漢だからな」
「そうなの、お爺ちゃま」
横から入って来たグランの言葉に頷き、その腰に抱きついていった凪。
グランはそんなひ孫の頭を、目を細めながら撫でてやっていた。
(まぁ、グランの言う通り、あの見た目が一番の問題だろうがなぁ)
凪はグランの様なナイスミドルな感じに弱いらしく、対角にいるケンイチのヤンキーの様な見た目は嫌いらしかった。
ただ、実際は今、甘えているグランはその見た目とは裏腹に、過去にはケンイチをボコボコにしたらしいのだが・・・。
(まぁ、それでも将来グランとケンイチの何方の様なタイプを連れて来るなら、俺はグランの方でお願いしたいが)
「さっむーい‼︎」
「どういう事だろう?」
「あ、あぁ・・・」
屋敷から転移の護符でザストゥイチ島へと降り立った俺とルチルと凪の三人。
かなりの寒さに驚いたのも一瞬。
「わぁ〜、雪だぁ」
「っ⁈どういう事だ」
凪の言葉通り、大地には一面の雪景色が広がっていて・・・。
「暑っ」
「炎の雨・・・」
空からは火の粉の様な炎の雨が降り注いでいたのだった。
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