第598話


「そろそろ、本題に入るか」

〈本題?〉

「惚けるな。俺達が此処に来るのが分かっていたなら、理由も想像が付いているだろう」

〈うむ。其れは勿論だが、先程迄の事も我に取っては本題という事だ〉

「そうか・・・」


 如何やら最初に此奴の言った良き関係というのは嘘では無い様で、世間話の様な内容ですら、此奴に取っては有意義な事らしい。


「とにかく、四人の秘術の継承者が揃ったんだ」

〈うむ。祝いの言葉を贈っておこう〉

「あぁ、感謝するよ。全員が問題なく秘術を使用出来るのも確認したし、何より門と鍵穴だ」

〈姿を現した様だな〉

「やはり、お前は感知できたのか」

〈否。ラプラス辺りの入知恵だろうが、我とて海から離れた場所の事は正確には探れぬ〉

「じゃあ?」

〈此れは、彼女より伝えられていた事だ〉

「それじゃあ、正確な場所を知っているんだな」

〈ある程度ではあるがな〉

「そうかぁ」


(正直なところ頼りたくは無いが、此奴が正確と言い切れないなら、アポーストルに頼るしかないかな)


「問題あるまい」

「ブラートさん?」

「大体の場所が分かれば、突如として現れた塔の情報を得る事は簡単だろう」

「そうですね」

〈話を進めている様だが〉

「ん?何だ?」

〈我とて鍵穴の場所を伝えられていたのだ。永き刻の中、何もしてなかった訳では無い〉


 俺がブラートの言葉に頷いていると、ヴァダーは意外な事を言って来た。


「え?じゃあ?」

〈うむ。其の内の一つだが、我の手の者を送り、既に押さえてある〉

「手の者って?」

〈海龍だ〉

「どういう話だ?」


 海龍は船旅や結納品の用意の時に狩った事があり、連中が交渉を出来る存在とは思えなかった。 


〈勿論、海龍を通じて我が念話をしているのだ〉

「なるほど。そういう事か」

「何処なの?其れは?」

〈此処より東に向かった大陸。名は『グラッタチェーロ大陸』だ〉

「グラッタチェーロ大陸?」


 首を傾げながらを見上げて来たアクアだったが、俺の此の世界の地理の知識は、サンクテュエールを中心としたものなので、其れに答えてやる事は出来なかった。


「ほお、興味深い所にあるんだな」

「知ってるんですか、ブラートさん?」

「ああ。グラッタチェーロ大陸といえば、魔物が闊歩する大陸として、冒険者達の間では人気の高い大陸だ」

「魔物が闊歩ですか⁈」

「ああ、そうだ」


 此の世界に来てから、色々な旅はして来たが、まだそんな特殊な大陸があった事に、純粋に驚きの声を上げた俺。


「ちなみにブラートさんは行った事は?」

「無いな。機会があればと思っていたが」

「そうですか。ヴァダー?」

〈うむ〉

「其の大陸は、どういう理由で魔物が闊歩したりしているんだ?」

〈それか。それは、グラッタチェーロ大陸そのものが、巨大な魔床なのだ〉

「巨大な魔床・・・。そんな大陸があるんだな」

〈うむ。その昔、人族の旅人が辿り着き、其の魔床に、お主等人族がダンジョン精製魔法と呼ぶ魔法を使用したのだ〉

「そういえば、ラプラスがダンジョン精製魔法の事を、魔人復活の為の魔法と言っていたが?」

〈うむ。其処にもある魔人が封印されていた〉

「されていた・・・、か?」

〈今は復活し、其の大陸の王を名乗っているがな〉


 俺は別に魔人が王を自称しても構わないのだが、気になる事が一つあった。


「そういえば、グラッタチェーロ大陸には、人族や他の種族は暮らしてないのか?」

〈元々は居なかったが、現在は魔物を狩る冒険者や商人等が生活をしている〉

「其奴等は魔人が王を名乗っている事には、何にも思ってないのか?」

〈そもそも、其れをしらないのだ〉

「へぇ・・・」


 まぁ、それこそヴィエーラ教の教祖の存在も秘匿されていたのだし、其れは不可能でも無いだろう。


「とにかく、ファムートゥの鍵穴は其処にある訳だ」

「え?そうなの?」

〈うむ。その通りだ〉


 俺が正確に誰の鍵穴か言い当てた事に、アクアはその粒らな瞳が飛び出さん勢いで見上げて来たが、ヴァダーは当然とばかりに肯定だけをした。


(此奴が態々そんなお膳立てをするのは、アクア関係に決まっているからな)


 ただ、それでも何の繋がりも持たない案件が一つ解決している為、不満は全く感じなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る