第564話
「決まった様だな」
「ブラートさん・・・、もう?」
「ああ、さっきな」
「そうですか・・・」
此処はディシプル港に停泊してあるサンクテュエール軍艦の中。
ブラートは、ディシプル王リヴァルと、元王子の決闘決行日時の報告を受け、此処に顔を出した様だ。
「早かったな」
「そうですね。リヴァル様は元々、覚悟を決めていたのかもしれませんね?」
「だろうな」
俺とブラートが、シエンヌと共にヴィエーラ教総本山へと乗り込んで、まだ一週間も経たない内に決まった此の決闘。
いくら罪人とはいえ、元王族の死刑ともいえる決闘など、たった数日で決行出来るものではなく、リヴァルが国に戻ってから、常に心の中で葛藤を続けていた事は想像に易かった。
「敵が動くとすればそれより前ですかね?」
「そうだなぁ・・・」
「其れとも、元王子に何か仕込む事も・・・?」
「無くはないだろうな」
「・・・」
元王子は武芸を得意にはしておらず、フォールの見立てでは、リヴァルに勝てる可能性など皆無との事。
まぁ、今回の決闘は、王族に対する例外的な死刑執行の術として組まれたもので、リヴァルが負ける事などあってはならないのだが・・・。
「元王子の息子さんは、意味を分かっているのですかね・・・」
「フォールから聞いた話では、其れは国王から孫へと説明しているらしいな」
同じ歳頃の子供達を持つ身として、何となく漏れてしまった疑問の声。
そんな俺に、ブラートは意外な事を告げて来たのだった。
「え?」
「ふっ。中々、司は飲みの席に付き合わんからな」
「あ、あぁ・・・、すいません」
「ふっ、まぁ、いいが」
ブラートは俺が驚きの声を上げた事を、知らなかった事への不満に似た感情と受けた様だが、俺の其れは純粋な驚きで、リヴァルが孫に今回の事を説明している事へのものなのだった。
「やはり、王族は背負うものが違うんですね」
「だろうな。本来なら人は皆、其々に背負うものがある筈なのだがな」
「えぇ・・・」
ブラートの発言は、生まれた時から特別な宿命を背負っていた彼だから出たものなのだろう。
「理解は?」
「しているそうだ。受け入れもな」
「・・・そうですか」
現王子からすれば、親と理解する前に別れたのだから、現状は問題ないのかもしれないが・・・。
「でも、親と理解した時に、父が囚われの身となると・・・」
「助け様としないとは、言い切れないからな」
「そして、元王子は既に守人の手の内と・・・」
「ああ」
そう考えると、今回のリヴァルの決断には、俺は感謝をするべきなのだろう。
「とにかく、此方は敵に集中するだけだな?」
「はい」
確認する様に告げて来たブラートの穏やかな視線に、俺は自身の中にあった言い様のない憂いを断ち切る様に、ハッキリと応えたのだった。
「パパー‼︎」
「ん?凪」
大きな声を響かせて部屋へと入って来た凪。
「あ・・・」
「・・・」
「こ、こんばんは」
「ふっ、ああ」
然し、部屋の中は俺一人だと思っていた様だが、ブラートも居たと知り、気まずそうに挨拶をして、珍しくモジモジとしていた。
「探検は終わったのか?」
「パパァ・・・」
「ん?どうした?」
俺からの問い掛けを、打ち切って欲しそうに目配せして来た凪に、俺は不思議そうな表情で答えてみた。
(凪にとっては、恥ずかしい話だったか・・・)
同じ歳頃の子達と比べると、かなり大人びている凪だったが、流石に軍艦の中は物珍しいものだったらしく、俺に許可を求めて来て朝から探検に出掛けていたのだった。
「恥ずかしがる事はないさ」
「・・・」
「ブラートさんもこう言っているし・・・、な?凪?」
「う・・・、ん」
返答に詰まっている凪だったが、其処からは恥ずかしさとは別の感情が見えて来て・・・。
(ダークエルフの事は教育を受けているだろうが・・・)
凪と颯はまだ学院には通っていないが、屋敷でグランやアナスタシアから座学と実技の教育受けている為、この世界でのダークエルフの立ち位置や危険性に付いては知っている筈で、いくら俺の仲間とはいえ、ブラートの事を怖がっていても不思議ではない。
「どうかしたのか?」
「え・・・?」
「俺の顔に何かついているか?」
然し、ブラートはそんな凪の様子にも、直球の質問で応えていたが、自分の出自に関係しているのは分かっているだろう。
(この人はこういうところで、本当に悠然としてるよなぁ)
そんな風に感心する俺。
「ごめんなさい」
「謝る必要はないさ。ただ、気になってな?」
「そうですか・・・」
「ああ。今迄、単純な恐怖の視線を送られた事はあったが、其れとは違う様に感じてな」
然し、凪の視線を浴びるブラートは、俺とは別の感想を抱いている様で・・・。
「似てるって思って・・・」
「俺がか?」
「はい・・・」
「誰とかな?」
「パパ・・・、と」
「え?パパと?」
「うん・・・」
まるで、言ってはいけない事を口にしたかの様な表情で、ブラートだけでは無く、俺の方も窺いながらそんな事を告げて来た凪。
「そんなに・・・、かな?」
「お顔は違うけど、でも・・・」
「似ている様に見えるか?」
「はい・・・」
「ふっ、そうか」
どことなく嬉しそうな笑みを浮かべ、納得したブラート。
そんな反応に、凪の表情も落ち着いたものになっていくのだった。
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