第543話
「この身体って、人族のものなんだよな?」
「基本は・・・、ですね」
「基本?」
不穏な内容を、見過ごせない態度で応えて来た救世主に、俺は即座に鸚鵡返しで問い掛けた。
「先程も言いましたが、其の身体には、其処に至る迄の無数の者達より得た全てを込めています。ベースは人族に限りなく近いのですが、其々の種族の良いところを取り入れているのです」
「そうなのか?」
如何やら、随分と大層なものらしい此の身体。
だが、俺には若返った事と魔法の能力に優れている事しか意識出来なかった。
(勿論、それでも十分なのだが・・・)
「意識出来ないのも無理はありません」
「・・・」
「鳥が空を飛ぶ事や魚が海を泳ぐ事を意識はしないでしょう?」
「まぁ、多分」
「其の身体は、エルフの魔流脈の潤滑な魔流や、獣人の持つ肉体の成長力、そして人族の此のザブル・ジャーチに最も適応出来る耐性と様々な事への適応力の高さを持っています」
「潤滑な・・・・・・、かぁ」
俺は救世主の告げた内容を呟きながらも、此の世界に来てからの日々を思い返す。
(魔流脈の部分はブラートとのミラーシへの鍵の件が思いださせるが、あの時はかなり厳しかった気がするが・・・)
「ん?どうした?」
「い、いやぁ・・・」
「ふっ、そうか」
「・・・」
ブラートの様子は俺があの時の事を思い返しているのに気付いてるもので、その笑みにはいつもよりも愉快な雰囲気が感じられた。
(まぁ、アレ以降、ディシプルでのグランとのやり取り等、魔力を操る事に苦労しなくなったが・・・)
肉体の成長力は一番理解し易い部分では有り、この世界に来てからのアナスタシアとの訓練では技術の向上に付いては納得出来なかったが、学生時代を含め、日本では一切スポーツをせず、運動神経ゼロだった俺が、訓練に付いていく事は出来ていた。
(勿論、全身を流れる魔力が補助してくれている部分も有るが、アナスタシアからは魔流脈にダメージを与えられた事を想定して、己の肉体だけを使った訓練も受けていたからなぁ・・・)
思い返すのは此の世界に来た当初の、地面に転がされ続けた地獄の日々。
「・・・」
「大丈夫ですか?」
「ぇ?」
「顔色が良くないですし、声も掠れていますし?」
「ぁ、あぁ・・・」
若干の吐き気を催し、声を抑え気味に応えた俺に、救世主は心配そうな声を掛けて来た。
そんな状況にも、俺は既に別の事を考える。
(あとは、人族の適応力と耐性という事だがこれは当然だろう)
此の世界は創造主が人族と共に創ったものだし、其処に適応するのは当たり前。
「人族以外の種族には、特殊な病も有りますし」
「あぁ、そうだったな」
救世主の言葉に先ず思い出すのはアナスタシアの患っていた魔石化症の事。
亜人は人族より寿命は長いが、まだ治療法の無い病も多いからな。
「人族の過ごす刻は俺達よりも短いが、高い医療技術によって、殆どの病の治療法が確立しているからな」
「ブラートさん・・・。そういえば、俺の寿命って?」
「一般的な人族の方と変わらないと思います。寧ろ・・・」
「何だ?」
「其の身体にしては短いかもしれません」
「え・・・、そうなのか?」
救世主から告げられた衝撃の事実に、少し身震いした俺だったが・・・。
「はい。7、80年位かと・・・」
「・・・」
救世主の続けた言葉に、心底から唖然として絶句したのだった。
(此奴は俺の寿命の希望が幾つだと思ってるのだろう?)
確かに高い魔力を持つ人族の中には、100を越えても元気な者も居るのだが、そもそも俺は既に40年を生きて来たのだし、70迄生きれれば感謝しか無いのだが・・・。
「やはり、特殊な魔法の負担が大きいのか?」
「そうなりますね。上質で豊富な魔力が諸刃の剣になっているのです」
「そうかぁ・・・」
流石に其れが問題と言われたらどうしようも無く、俺はただ納得し受け入れたのだった。
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