第518話
「永かった・・・」
「・・・」
シエンヌの呟やく様な声は正確に聞き取れたが、其れにはツッコミを入れず・・・。
「入り口は何処でしょう?」
「・・・」
「隠し扉的なものは、有るんでしょうか?」
極々自然な感じで、侵入口を探る。
「さて・・・、ね」
正直なところ、期待をしていた答えが返って来ず、少しガッカリしたが・・・。
「ただ、行くべき場所は決まっているのさ」
「何処です?」
「此処の地下だよ」
「地下ですか・・・」
余りにも在り来たりな場所に、若干拍子抜けしてしまう。
(シエンヌがこう言うって事は、地下に教祖とやらが居るのだろう)
そうなると、どうやっても侵入するしか無いが、正面突破は悪手だろうな。
(此処に着く迄は、シエンヌばかりが敵を仕留めて、俺とブラートは体力魔力共に余裕があるけど、敵の数が多過ぎるだろう)
眼前の巨大な建物を護る為に必要な人員と考えると、二人と疲労のあるシエンヌで選択すべき侵入方法はやはり忍び込む事だが・・・。
「マジックアイテムの罠が無ければ、門と呼で移動するのが一番安全ですかね?」
「ああ。ただ流石にそれは俺も確約出来んな」
「ですよね」
マジックアイテムは魔力の流れを視認出来ないから、俺とブラートの察知は無意味。
「・・・」
「さてね?」
俺がシエンヌに視線を送ると、あっさりと分からないと告げて来た。
(隠し通路には自信を持っていたのにな・・・)
教団全体の管理するものには自信が無いという事?
それも、現在のという事か?
そんな風に、シエンヌの態度から、この人と教団の関係性を想像してみる。
「とりあえず、上空から探りを入れみましょうか?」
「大丈夫なのかい?」
俺からの提案に、シエンヌは訝しげな視線を向けて来た。
(まぁ、俺の隠密能力に疑いがあるのだろうが・・・)
シエンヌの判断を疑うよりは、自身の実力を疑うべきと自分でも理解出来ているのが、悲しいところだった。
「ふっ、大丈夫だろう」
「ブラートさん」
「ブラート、アンタねぇ・・・」
軽い感じで言うブラートに、俺は悲しみが少し晴れ緊張が解けたが、シエンヌはより訝しげな視線を強めて来た。
「確かに此奴の魔力や戦闘能力は一切の疑いを持つ必要が無いよ?ただ、この間の抜けた締まりの無い顔を見てみな?」
「・・・」
「ふっ、そうか?中々、良い顔だと思うが?」
「ブラートさん・・・」
シエンヌから精神的に追い込まれていた為、ブラートの言葉に本気で救われた気分になり、単純に心酔した様な視線を向ける。
「ブラート、軽く言うんじゃ無いよ?」
「軽くは言ってないさ?」
「なら・・・」
「ただ、現状なら司に利のある状況だと思ってな」
「利だって・・・」
俺へと向けていたのと同種の視線をブラートへと向けるシエンヌ。
ただ、ブラートは決して根拠無く言っているのでは無く、この数年の俺との訓練から、ある程度俺の魔法の効果を理解しての発言なのだった。
「そんな事を言ったて・・・」
「叛逆者の証たる常闇の装束」
「・・・っ」
論より証拠。
俺はシエンヌの言葉を遮る様に漆黒の装衣を纏い・・・。
「何を・・・、って⁈」
自身の中に有る、チマーより植え付けられた闇の因子と纏し漆黒の装衣を共鳴させ、漆黒の装衣を闇の純度を高め、夜の闇へと溶け込んでいく。
そんな様子に、眼前にいた筈の俺を見失ってしまったのだろう。
シエンヌは驚愕の表情を浮かべ、俺の高速での移動を疑い、空へと視線を向けていた。
「此処ですよ」
「っ⁈アン・・・、タ?何を・・・?」
「正確には説明する時間が勿体無いので・・・」
「・・・っ」
俺からの当然の指摘に、一瞬だけムッとした様な表情をみせたシエンヌだったが・・・。
「ふんっ」
「・・・」
「時間は・・・5、いや3分だね」
鼻を鳴らして、直ぐに俺へと制限時間を告げて来る。
「分かりまし・・・」
俺はそれに応えながらも、二人に背を向けて・・・。
「たっ」
語尾に合わせて地面を蹴り、空へと翔け出したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます