第516話


「此処は・・・?」

「総本山近くの森さ」

「・・・」


 光の晴れた先。

 辿り着いたのは、光を遮る様な森の奥深く。

 シエンヌの応え通りなら、総本山は近くらしいが・・・。


「どの位の距離なんでしょう?」

「大人が歩けば30分位だろうね」

「なるほど・・・」


 シエンヌはそう言うが、余りにも周りの木々が高く、俺には森の外の様子が確認出来なかった。


「あのマジックアイテムが誤作動する可能性は?」

「・・・」

「え〜と・・・」

「心配するな、司」

「ブラートさん」

「そんなへまをする女じゃ無いさ」

「はぁ・・・」


 失礼かもしれないが、確認の必要は有る。

 そう感じ質問をした俺だったが、シエンヌから答えを得る事は出来ず、代わりにブラートからのフォローが入ったのだった。


「へまはどうか知らないけど、アタシも此処に来るのは久方振りだからね」

「年単位とかですか?」

「・・・ああ」

「・・・」


 そうなってくると、総本山の造りや配置が変わっている可能性は高いし、其処迄正確な情報を持っていないと考えるべきだろう。


(ただ、年単位ねぇ・・・。仕事で使用したなら、シエンヌの年齢から考えて長過ぎる気もするけど・・・)


 先程のロザリオの件を問いたい気持ちも有るが、敵の本拠地で精神的に落ち着きを失われるのも問題。


(根底に有るものが何かは分からないし、この人の場合其処迄の関係性でも無いしな)


 今回、シエンヌが俺を此処に連れて来てくれたのは、確実に俺とブラート、アンジュの関係があっての事だろう。


「本拠地へと乗り込む道に、監視の少ない道は?」

「無いね。ただ・・・」

「ただ?」

「少なくとも、こんな昼間に乗り込むのは悪手さ」

「う〜ん・・・」

「何だい?不満でも有るのかい?」


 少しだけ、ムッとした表情をみせるシエンヌ。

 然し、俺が悩んでいるのは、決して不満からでは無く・・・。


「あのマジックアイテムを使用した事が、敵に知られている。若しくは、過去はともかく、彼処の管理を現在は敵がしている可能性は無いのでしょうか?」

「・・・」


 俺の疑問に特段驚いた様子も無く、然し、無言になったシエンヌ。


(其れを正確に答えると、アレの出所や詳細を知る事の出来る可能性が有るのかな?)


 ただ、重い口を開いたシエンヌの答えは・・・。


「無いね」

「・・・理由は?」

「彼処は教団の一部の人間しか知らない。現在では一人だけだ」

「・・・」

「其の一人が、口を割る事は有り得ない」


 内容だけ聞けば、理論も何も無い、いい加減な答えだったが・・・。


「それは、シエンヌさんがその人を信頼しているという事ですか?」


 たった一つ確認しておかなければいけない事を、俺はシエンヌへと問い掛ける。


「そうさ」


 短く答えるシエンヌ。

 それならば、俺の答えも決まっている。


「なら、深夜から明け方を狙って侵入しましょう」

「・・・っ」


 先程迄とは違い、驚きをその表情に刻んだシエンヌ。


「アンタ・・・」

「ふっ、そうだな」

「ブラート・・・」


 格好を付ける訳では無いが、多くを語る必要も無いだろう。

 そんな俺にブラートも賛同し、シエンヌは表情を落ち着かせ・・・。


「ふんっ。ガキがナマ言って・・・」

「ふっ」


 整った高い鼻を上に向けながら鳴らし、シエンヌは、それでも先程迄よりは何処か優しい表情をみせ、ブラートはそんな様子に満足そうに笑みを浮かべた。


「突入のタイミングはアタシが決める。良いね?」


 俺とブラートに順に視線を送り、確認して来たシエンヌ。


「えぇ」

「勿論だ」


 俺達がハッキリと応えると・・・。


「良しっ。今は休みな・・・」


 母性を感じさせる声で、静かに告げて来たのだった。

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