第503話


「どうして・・・」


 最後にスラーヴァと話したのは、朔夜が完成した時、グロームにより落とされた時だった。

 その時には身体との同化が進んでいるという話だったが・・・。


(あの素顔に、スラーヴァが運ばれた・・・)


 俺はスラーヴァが目の前に現れた驚きよりも、その身体がスラーヴァのものでは無く、魂が運ばれた先であるという事に、言い様の無い違和感を感じていた。


「はは」

「・・・っ、スラーヴァ?」

「どうしても何も、私達の作戦行動の目的地に来たら、司が居たのだよ」

「それは・・・」


 違うと続けたかった言葉を止める。

 俺が一番に気になるのはその事では無かったのだが、スラーヴァは俺の様子に勘違いしたらしい。


「・・・何故と聞くのは無駄だろうな?」

「ああ、勿論だ」

「・・・」


 此奴は自身の意思で無く、勝手に魂を運ばれているのだ。


「俺に手を貸す気は?」


 先程迄の戦闘は、此奴がスラーヴァと分からなかった為のもので、分かった今なら交渉の余地がある。


(幸いな事に、此奴は俺に近しい仲間を殺してはいないし、自身の魂に勝手な真似をした者を討つと言っていたのだ)


「過去の事は水に流せるぞ?」

「・・・」

「俺とお前の力が有れば、ルグーン達・・・、境界線の守人達がどんなに強力だろうと、確実に勝てると言って良いだろう」


 此奴の目的が打倒守人ならば、俺と完全に同じもので、守人側から此奴という一大戦力を割き、俺と此奴が手を組めば、楽園からの追放者と合わせて、明確な共同戦線を張らなくても、勝利は確実と言って問題は無かった。


「・・・」


 俺の勧誘を黙って聞き、仮面の中の双眸は閉じているのだろうか?

 沈黙の中、考え込む様子をみせた。


「そうだな・・・」

「・・・」

「司の言う事は、確かにそうだ」

「なら・・・」


 俺の言う事に納得したらしいスラーヴァ。

 それを告げて来たのだが・・・。


「だが、断ろう」


 出した結論はノーらしく、その手に持った氷漬けの白夜を、俺に向かい構えて来た。


「正気か?」

「ああ。こんな事を冗談では言えないだろう」

「・・・」


 俺からの確認に、特段の気負いは無く答えるスラーヴァ。


「彼奴等に弱みを握られているのか?」

「・・・」

「お前が力を貸してくれるなら、協力は惜しまないし、お前に守りたい者が居るなら、此処では手を引き、後日でも・・・」


 此奴は以前、所帯を持ったと言っていたし、その相手、それにあれから既に年単位の月日が流れているのだし、子供が生まれていても不思議では無い。

 此処で、此奴が裏切れば、危険が及ぶ可能性は高いのだし、一旦は手を引き、家族と合流した後に、此方側に来るのが当然の判断だろう。

 そう思い、俺はスラーヴァへと告げたのだが・・・。


「必要無い」

「・・・」

「答えは変わらないからな」


 スラーヴァは家族を心配して、此方側へと来る事を躊躇っているのでは無い様だった。


「彼奴等と共にあれば、家族に危険が及ぶ可能性もあるだろう」

「それは、脅しかな?」

「・・・見縊るな」

「はは、すまんな」


 スラーヴァは最初、俺が家族に手出しをすると言っているかの様な反応をみせたが、俺が静かな怒りを示すと、直ぐに笑みを浮かべ、それを否定して来た。


「心配してくれなくても大丈夫だ」

「・・・」

「彼女はそんなにか弱い存在では無いさ」

「意志は変わらない訳だな?」

「ああ」


 俺の最終確認にハッキリとした口調で答えたスラーヴァ。


(此奴の所帯を持った相手は、獣人と言っていたが・・・)


 俺の頭を過ったのは一人の女。


(確かに、彼奴の事を考えると今更・・・)


 過去のスラーヴァという名を持つ男。

 その男と初代九尾との悲恋。

 そして・・・。


「どうした、司?」


 俺へと戦闘の再開を促す様な視線を送って来るスラーヴァに、俺は・・・。


「そうか、残念だよ」

「はは、そうか?私は楽しいのだが?」

「・・・戦闘狂が‼︎」


 朔夜を持つ手に力を込め、スラーヴァへと構える。


「決心はついたかな?」

「ああ。お前を倒す」

「何故・・・、は必要無いかな?」

「当然だ。俺も家族を、子供達の未来の為に闘っているんだ‼︎」

「良い答えだ‼︎」


 俺とスラーヴァの、漆黒の双眸が重なり合い、二人の闘いが再び始まったのだった。

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