第484話
「・・・」
「ふっ、どうした司?」
「え?いえ、何でも・・・」
「そうか?家族でも恋しくなったかと思ったが?」
ブラートからのツッコミはかなり的確なもので、俺は図星を突かれていた。
「ちょっと心配事も有りまして・・・」
「大丈夫さ」
「ブラートさん」
「家族が何でも分かり合えるとはいかないが、アンジュも刃も分かってくれているさ」
「・・・だと良いんですけど」
「ふっ」
それなりに長い付き合いの中で慰められる事の多いブラート。
ただ、俺は安堵というより、彼の告げた言葉の中で一つの単語が気になってしまった。
「ブラートさんは・・・」
「ん?」
「家族とか居るんですか?」
「・・・」
聞いては悪い内容だったのか、不機嫌な感じはしないが、無言になったブラート。
(聞くべきでは無かったか・・・?)
「母のみだったがな」
「そうだったんですか」
「ああ。父親は俺が生まれる前に居なくなっていたし、母ともそう長く生活は出来なかった」
「すいません」
「ふっ、気にするな」
ブラートのそう気にせず応える様子に、もしかしたら長くは無いとは言っても、エルフ族にとっての時間かもしれないと勝手に解釈してみる。
「司はどうだった?」
「そうですねぇ・・・。成人前に家を出ていたんですけど、ちょくちょく顔は出していましたよ」
「家族仲は良かったんだな」
「そうですね。ただ・・・」
「ただ?」
「結婚の事はちょくちょく言われてましたけどね」
「ほお?妻や子供達を見せたいか?」
「そうですね。まぁ・・・」
結局、それは叶わなかったが、両親は昔から俺の自立を望んでいたし、それはみせた訳だから、最低限の親孝行は達成していると言えるのだが・・・。
「退屈ですか?」
「ふっ、どうした?」
俺が振ったところもあるとはいえ、珍しい内容の会話に、ブラートが現状に飽きているのかと思ったのだが・・・。
「そうでもないさ」
「そうですか」
「ただ、国の中を探索してみたくはあるがな」
「それは、任務が終わったら行ってみましょう」
「そうだな」
眼前に広がる海を眺めながら、そんな話をする俺とブラート。
任務というのは俺が国王から受けたもので、タブラ・ナウティカへと派遣された外交官の護衛役だった。
「本当に来ますかね?」
「ふっ、頭の勘は一流だからな」
「はぁ・・・」
俺の任務は国王からの命で、何故それにブラートが同行してるかというと、其処にはシエンヌが関係していた。
アクアと外交官をタブラ・ナウティカ迄護衛する前日。
「え?ブラートさんをですか?」
「ああ。連れていきな」
アンジュに任務で遠出する事を伝えに真田家隠れ家へと来ていた俺。
任務の内容を黙って聞いていたシエンヌから、意外な申し出があったのだった。
「連れてって言われましても・・・」
「ふっ、俺は構わんぞ?」
「はぁ・・・」
一応、ブラートの意思を確認しようと視線を向けると、意外でも無くあっさりと了承したのだった。
(まぁ、シエンヌが頭の訳だから、当たり前だろうけど・・・)
ただ、今回の件は国王からの命の為、流石に勝手に同行を許可する訳にはいかないのだが・・・。
「取り次いで貰えれば、俺から話をつけよう」
「ブラートさんがですか?」
「ああ」
「う〜ん・・・」
そう迄、言われると、拒否するのもどうかと思うが・・・。
(国王とブラートは知らない仲では無いとはいえ、一応ブラートは犯罪者だからなぁ)
国王が其れを何処迄、気にするかは微妙なところだが・・・。
「どうして、ブラートさんを?」
今更、シエンヌが俺に害意を示して来るとは思えないが、理由を確認する必要はあるだろう。
「・・・」
「シエンヌさん?」
「アンタの言っていた、聖堂騎士団の件だよ」
「え?彼奴等が・・・」
「必ず何か仕掛けて来る。其れは確実さ」
「・・・」
無いとは言えないが、何故そんなにも聖堂騎士団の事を気にするのか?
(戦力としては頼りになるが・・・)
「・・・」
答える気は無いだろうが、逆に同行して貰って探りを入れるのも有りかもしれない。
「分かりました。出発迄、時間も無いので直ぐに行けますか?」
「ああ」
こうして、俺はブラートと共にタブラ・ナウティカへとやって来ていたのだった。
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