第479話


「勝者、颯=リアタフテ様ーーー‼︎」

「おおおーーー‼︎」

「流石、リアタフテの麒麟児だ‼︎」

「リアタフテ万歳‼︎サンクテュエール万歳‼︎」


 颯の勝利を告げる審判の声に、会場全体を包む大歓声が、俺の居る貴賓席迄打ち上がって来た。


「予定通りとも言えるが、見事だな」

「フォール将軍・・・。ありがとうございます」

「勝てる闘いを確実に獲るのは難しいものだからな」

「えぇ、良くやりましたよ」


 魔法を使用せず、歳上の男の子に勝利した颯。

 勝ち方も横綱相撲と呼べる内容で、相手にも攻めの機会を与え、全て防ぎ切ってからの、迅速な攻めによる勝利だった。


(観客の反応が試合を楽しめた事を示しているな)


 未だに会場に響き続ける歓声に、颯は照れながらも応えていたのだった。


「これで、颯は決勝だな」

「はい」


 颯の結果に納得している様に頷きながら、俺へと語り掛けて来たケンイチ。

 日頃なら、俺には絶対にみせない表情が、上機嫌な事を示している。


「対戦相手は・・・」

「・・・」


 ケンイチの視線の先に目を向けると、其処には先に決勝進出を決めていた刃の姿があった。


「弟の方もかなりやるな」

「ケンイチ様・・・、はい」

「颯にも頑張って欲しいが、どうなるか・・・」

「・・・」


 刃の事を弟と表現してくれたケンイチに、俺は一瞬嬉しくなったが、颯との対戦には相当複雑な感情があった。


「まあ、凪が適当な事をしてなけりゃ、どうなってたかは分からねえがな」

「ですね」


 ケンイチの言葉通り凪は、一回戦は勝利したのだが、二回戦で態と負けて敗退していた。


(凪は聡い子だから、今日の客の期待に応えただけだろうが・・・)


 今日の客の期待、それは颯の優勝であり、サンクテュエールには国の将来を背負える綺羅星の様な未来があると、国中や大陸内から集まった客人達に示す事だった。


(まぁ、それが国の平和に繋がるのも確かなのだが・・・)


 余計な混乱を生まない為に敗退した凪。

 凪の力自体は、パレスー家の子との一件の様な事が複数有る為、国中の貴族には知れ渡っているし、其れを隠す事にはならないのだが・・・。


(ただ、サンクテュエールの貴族の間では絶対的に長男こそが、後継者として正統性が有るからなぁ)


 凪が颯に勝つ等有ってはならないし、決勝進出するのも、凪の力を正確に知っていて、凪を推している連中に変な期待を抱かせてしまう。


(凪しか子が居なければ、颯を応援している連中も凪の絶対的な勝利を期待するのだが)


 其処は複雑な感情で、将来召喚により、凪に俺の様な平民の婿が来た場合、凪の方が力が上で無ければ、貴族としての誇りに傷が付くのだった。


(俺には理解出来無いが、連中にとっては貴族の家に生まれた事が自身の最大の才能と、本気で思っているのだろう)


 対して順調に勝ち進んだ刃には、そんな大人の事情は全く分かっておらず、其れを進んで説明するものも身近にいなかったのだが・・・。


(せめて俺が早めに知っておけば、病欠にでもしたのだが・・・)


 アンジュやエヴェックも理解はしていただろうが、それを刃に伝える様な酷な事は出来なかったのだろう。


(刃は年齢も有るが、周りは殆ど平民の子という環境で生活しているから、そんな事を急に言われても理解出来る思考が無いからな)


 せめてもの救いは、国王やケンイチがどんな結果になったとしても気にはしないという事だろう。


(望ましく無い注目も一時的、暫くは人目に触れさせない様にしとけば良いだろう)


 そんな風に考えてしまう程、刃と颯の間には、貴賓席に集った実力者達がわざわざ口には出さない力の差が有るのだった。



「何故、止めないんだっ‼︎」


 国王や客人が集う貴賓席に響き渡る俺の怒号。

 颯と刃の決勝戦は、開始して五分としない内に、勝負は決していたのだが、審判は試合を止める事をしなかった。


「既に戦意は喪失しているぞ」

「うむ」

「颯は動けない状態・・・」

「刃もこれ以上の攻撃は加えたく無いだろう」


 ケンイチとフォールも同じ判断らしく、ボロボロの状態で倒れている颯と、試合が終わらない為、不本意な攻撃を続行する絶望した表情の刃を見ていた。


「審判は・・・‼︎」

「うむ、冷静な判断が出来ていない様だな」

「周りの歓声・・・、まあ、怒号に押されて終了の合図を出せなくなってやがる」

「・・・っ‼︎そんな‼︎」


 ケンイチの言葉通り試合場は、サンクテュエールの客は颯に立ち上がる様に無理な声を送り、ディシプルの客は刃へと手を止めるなと声を上げ、審判はサンクテュエールの者の為、颯の敗北を告げられ無いという、最悪の状況になっていたのだった。

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