第463話


「話があったって事は、ファムートゥは自ら?」

〈うむ。人としては悠久を超えるであろう刻の眠りを受け入れたのだ〉


 ヴァダーの声からは、その憂苦が感じられ、其の他の三家とは異なる、ヴァダーとファムートゥの関係が見て取れた。


(ただ、そんな事はどうでも良いんだが・・・)


 俺が気になるのは、その関係性では無く、何故、そんな必要があったかだった。


「何の為に?」

〈無論、全ての鍵の揃う唯一の今日を迎える為だ〉

「何故、其処迄して鍵を揃える・・・、楽園への道を開く必要があるんだ?」


 其れは追放者であるお前達が、楽園へと帰りたいからだろう?

 俺の中でそう答えは出ているが、巻き込まれている事への不満から、其れは此奴の口から言わせたかった。


〈此の世界の在り様を変えるには、此の世界を創った者の力を頼るしか無いからだ〉

「は?此の世界の在り様を・・・、何故だ?」

〈其れはファムートゥに聞くと良い〉


 一切の想定もしてなかった応えを告げ、詳細は人任せにするヴァダー。

 当然、俺は食い下がるが・・・。


「お前でも、良いだろう?」

〈此れを、我より聞いても、その内容は楽園からの追放者とって、都合の良い嘘と取られるだろう?〉

「内容を聞かないと、其れは判断出来ないし、そもそも、ファムートゥがお前との共犯で、嘘を教える可能性は大だろう?」


 俺の心を読んでいる様なヴァダーの物言いに、俺も少しムキになって反論をする。


〈其れも、心配する事は無い〉

「予知で見たのか?」

〈そうだな。お主はファムートゥと深い話を出来る間柄になる〉

「・・・どうだかな?」

〈会えば分かる。そんなに気になるなら、ピロートークの時にでも聞けば良い〉

「な⁈な、何を・・・⁈」


 突然のヴァダーからの妙な発言に、俺は動揺を示してしまう。


〈我等にとって番とは子孫を残すだけのものだが、起源種達は不思議な関係を築くであろう?〉

「ふ、ふざけるなっ。俺はもう既に家庭を築いているんだっ。お前だって知っているだろうっ?」

〈其れを不思議な関係というのだ。優れた種を広範囲に蒔くのは、種族の繁栄の為に必要であろう〉

「・・・っ」

〈まあ、其れに感化されて、リョートとアゴーニは妙な番となったがな〉


 思い出されるのはザストゥイチ島での激闘。

 あの時、確かにリョートとアゴーニは、愛し合う夫婦の様な反応も見られた。


(ラプラスなんかも、家族を大事にしてる感は有るんだが・・・)


 ただ、ヴァダーの発言を素直に聞くなら、楽園ではそんな感覚は不思議なものなのだろう。


〈それに、お主はリアタフテとは別に、家を築いているしな〉

「そ、それは・・・」

〈まあ、其れは、我の予知では読めなかったがな〉

「そ、そうかぁ・・・」


 痛いところを突かれて、少し次の句に困る俺。


(いや、これじゃあ、此奴の思い通りになってしまう)


 ヴァダーのペースで進む会話に、俺は首を振り、落ち着こうとしたが・・・。


〈それに、何処迄いってもお主が納得する事だけが、真実なのだからな〉

「・・・」

〈其れの、真を深めたいなら、ファムートゥ以外の者からも情報を得れば良いのだ〉

「お前からも・・・」


 俺が追及をしようとした・・・、瞬間。


〈そろそろ、時間だな〉

「お、おいっ」


 いよいよ、去ろうとするヴァダーに、まだ話足りずに呼び止める俺。


〈ファムートゥも待っているだろう〉

「待っているって?」

〈永き眠りの刻から目覚め、お主との出会いをだ〉

「それは、待たせても良いだろう」


 ファムートゥの存在が気にならない訳では無いが、此奴とはいつ再会出来るか分からないのだ。


〈安心せよ。別にそう永くも休めはせぬ〉

「俺とお前じゃ、時間の感覚は違うだろう?」

〈ふむ。では、とりあえず、一月後の再会を約束しよう。其れで、どうだ?〉

「お前が約束を守るかは、分からないだろう?」


 このまま、約束を守らずに、有耶無耶で済ませる可能性もある。

 俺からのそんな発言にヴァダーは・・・。


〈お主は、我とファムートゥとの関係に、特別なものを感じているだろう?〉

「まぁな」

〈なら、ファムートゥが夫から苦しめられていないか、確かめるとは思えぬか?〉

「・・・」

〈安心せよ。力を休めるのは、守人達との闘いの為。少なくとも、其れはお主にとって悪い話では無いだろう〉


 上手く言い包めて来るヴァダーに、渋々従う俺。


〈では、呉々もファムートゥの事を頼んだぞ?〉

「約束を守るなら・・・、な」

〈分かった。此れは、我とお主との契約だ〉

「・・・了承した」

〈では、一月後・・・〉


 そう言って、ヴァダーの蒼き双眸が輝きを放った・・・、刹那。


「・・・っ⁈」


 俺は此処に運ばれた時と同じ感覚に襲われたのだった。

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