第446話


「ぅぅぅ・・・、刃っ」

「へっへっへっ、3つも歳下の俺に5対1で負けるなんて情け無いな」


 その後、子分の子供達も頭突きだけで倒していった刃。


(本当、笑い方は母親譲りだよなぁ)


 その不敵な笑みを浮かべた横顔は俺に似ているが、堂々とした態度はアンジュそのものだった。


「うるせぇ‼︎魔法使うなんて卑怯だろっ‼︎」

「てやんでえ‼︎最初、女の子2人を5人の男でいじめてたのが、本当の卑怯者だろうがっ‼︎」


 レザールからのある意味では正論にも聞こえる恨み節を、刃は正道のど真ん中を通る正論の一喝で一蹴する。


「・・・うっ」

「レ、レザール様ぁ・・・」

「・・・っ」

「そ、それは・・・」

「・・・ぐすっ」


 後退りながら言葉に詰まったレザールに、子分の子供達は一様に俯いてしまう。


「・・・に‼︎」

「あんっ?ハッキリ喋りやがれっ、大将だろうがレザール‼︎」

「・・・っ」


 完全に刃の迫力にやられてしまっているレザール。


(あまり、良くない事を呟いた様だが・・・)


 俺は若干嫌な予感がしたが、既に子供の世界の話になってしまっている為、此処から俺が出て行けば折角解決しそうなのに、より複雑な問題になるだろう。

 仕方なく事の成り行きを見守る俺。


「貴族のヒモの落胤のくせに‼︎」

「・・・っ」


 叫び声を上げたレザールに一瞬、言葉を詰まらせた刃。

 ただ、叫び声を上げたレザールの方が全身を震わせ、その双眸を目一杯の力で閉じて、覚悟を決めたかの様な様子だった。

 その証拠に・・・。


「馬鹿野郎、レザールッ‼︎」

「・・・ぐっ‼︎」


 刃から上がった叫び声に、レザールは両掌を力一杯握りしめ、顎を引き、首を竦めたが・・・。


「俺は落胤じゃ無くて、庶子だ‼︎」

「・・・え?」


 刃の堂々とした主張・・・、ツッコミと言うべきか?

 その様子に、言葉の意味も分からないであろうレザールは、ただただ唖然とした表情を浮かべる。

 だが、刃の主張はそれだけでは終わらず・・・。


「それに、俺の父さんはヒモなんかじゃないやい‼︎」

「・・・」

「父さんはサンクテュエール・・・、いやっ‼︎大陸一の大魔導師で、リアタフテの方が父さんの手柄に寄生してるってんだいっっっ‼︎」

「うっ⁈」


 自身の事よりも力強く、有無を言わさぬという意志を感じる刃の言葉。

 それを真正面から受けてしまったレザールは・・・。


「レ、レザール様・・・」

「ズ、ズボンが・・・」

「漏ら・・・」


 へたり込んでいたレザールのズボンの股間部分が濡れ、地面に小さな水溜りを作ってしまった。


「う・・・」

「おい、レザール」


 その水溜りに視線を落としてしまったレザールに、刃は心配する様に、声のトーンを落ち着け、出来る限り優しく語り掛けたが・・・。


「うわぁぁぁーーーんんん‼︎」

「おっ、おお・・・」


 顔を上げた勢いのまま立ち上がり、大声で泣きながら駆け出して行ったレザール。

 刃は唖然とそれを見送り、その隙を逃さず子分の子供達も逃げて行ったのだった。


「刃様っ」

「ありがとうございます」

「へっ、よせやいっ」


 レザール達が逃げ出したのを確認すると、刃へと駆け寄るいじめられていた子供達。

 刃は照れ臭そうにしながらも、満更でもない様子だった。


「あ、そうだ・・・」


 何か思い出した様にフィーユへと歩み寄った刃。


「刃様・・・?」

「ジッとしてろ、フィーユ」

「は、はい・・・」

「ぅぅ・・・」


 刃から見つめられ語り掛けられた事でフィーユは頰を赤く染め、もう1人の女の子は、何とも言えない声を漏らしながら、少し潤ませた瞳を逸らしたのだった。


(いやぁ、此れは完全にアンジュ譲りだろうな・・・)


 俺は自身の子供の頃を思い出しながら、重ならない息子の其れに、明らかなる母の遺伝を感じ、少し悲しい気持ちになった。


「・・・っ」


 短く気合いを入れ、フィーユの膝の傷を回復魔法で治療した刃。


「ありがとございます、刃様っ」

「すげぇー‼︎」

「流石、刃様です」

「わぁ・・・」


 それを見ていた子供達は、フィーユは礼を言い、2人の男の子は間近で見る魔法に興奮し、女の子は逸らしていた視線を刃に戻し、釘付けになっていたのだった。

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