第437話


「あがががぁぁぁ・・・」


 激痛もあり、爪の拘束に抗う事が出来ず、身動きのとれない俺。


「ふふふ、大変ですねえ」

「っっっ‼︎」


 地上から其の様子を見上げるルグーンは、可笑しそうに嗜虐的な笑みを浮かべていた。


(強度はともかく、こんな広範囲で視界の外からも狙われると・・・)


「グ・・・、剣」


 漆黒の剣を詠唱した俺は、自身を貫いた爪を斬り裂いていく。


「・・・っ‼︎」


 魔導巨兵の爪に漆黒の刃を立てると、爪は俺の身体を抉る様になり、息苦しい痛みが襲って来た。


「ふぅぅぅ・・・」


 徐々に整う呼吸に、大きく息を吐いた俺。


「・・・っ⁈衣‼︎」


 一瞬、動きの固まった俺へと襲い掛かって来た爪を、漆黒の衣を放ち止める。


「ぐぅぅぅ・・・‼︎」


 漆黒の衣へと魔力を注ぎながら、身体を貫いた爪を抜いていく。


「っっっ・・・‼︎」


 傷口から地上へと流れ落ちていく血が、身体から活力を奪っていってしまう。


「ぃぃぃーーー‼︎」

「ちっ‼︎」


 気合いを入れる様に震える高音の奇声。

 俺が爪の侵攻を食い止め様と、漆黒の衣の魔力を増すと、俺と魔導巨兵の争いの軋み音が、辺りに響き渡った。


(此の手で抑えれるって事は、機体を根本にして伸びて来てるんだな・・・)


「マ・・・、マ?」

「ね・・・、マ・・・、ない?」

「に・・・、ろ?」

「な⁈」


 俺との力比べの様な体勢に入った魔導巨兵から聞こえて来た、奇妙な会話。


「・・・しょ?」

「ち・・・、な‼︎」

「でも・・・、よ?」


 会話が始まった事で、俺へと迫っていた爪の力が緩んだ。


(今なら・・・‼︎)


「若頭‼︎」

「バドーさん?」

「大丈夫っすか?」


 俺が素早くアイテムポーチから傷薬を出し、全身に浴びせていると、バドーが族車を走らせ来た。


「大丈夫です。九尾達は?」

「何とか、退けたっす。援護します」

「いえ‼︎バドーさんは直ちに軍を退かせて下さい‼︎」

「え?若頭?」


 申し出を即座に断った俺に、バドーは驚きの視線を向けて来たが・・・。


「急いで下さい‼︎」

「で、でも・・・」

「巻き込みたく無いんです‼︎」


 再起動した魔導巨兵は、操縦者が分からない為、コクピットを貫いたとしても停止するかは分からない。


(然も、動力源も不明、こうなると完全に崩壊させるしかない‼︎)


 奥の手を切る覚悟は出来たが、其れで親衛隊を巻き込み全滅させる事があれば、サンクテュエールの滅亡に繋がる。


(ルグーンは、子供の声で俺を止められると思ったのかもしれないが、逆に覚悟が出来た・・・‼︎)


 魔導巨兵から響く子供の声が、屋敷と隠れ家で待つ子供達を思い出させ、必ず此奴を仕留めさせる必要を感じさせたのだった。


「隙は、今しか有りません‼︎」

「り、了解っす‼︎」


 俺に背を見せたバドーは族車を走らせながら、撤退の信号弾を戦場上空へと打ち上げたのだった。

 其れを見た事と、魔導巨兵の異常な変化に、アッテンテーター軍の兵士達も撤退を開始する。


(漆黒の大槍は・・・、良しっ‼︎)


 闇の魔力が集束したまま、地上に突き立っている漆黒の大槍。

 其れを確認した俺は、疲労感の残る身体に鞭を打ち、其れを目指して翔け出した。


「・・・行ける‼︎」


 闇の大槍を抱え、魔導巨兵上空へと翔け昇った俺は、覚悟を確認する様に声を上げ・・・。


「ママだよ‼︎間違い無いよ‼︎」

「ほんとだ、ママだ‼︎」

「ママが助けに来てくれたんだ‼︎」


 怨嗟の声から一転、明るい子供らしい声を上げた魔導巨兵。


(真実が何であろうが・・・、関係ない‼︎)


「螺ッッッ・・・、閃ァァァーーー‼︎」


 自身目掛けて飛来する漆黒の大槍に、魔導巨兵は回避行動を取った・・・、刹那。


「無駄だ‼︎」


 極大の闇の塊は幾百もの闇の一閃に別れ、其の闇の一閃は螺旋を描きながら、魔導巨兵を、宙を、そして大地を斬り裂いていく。


「此れは・・・」


 危険を察知したルグーンは、魔法陣を詠唱し其処に飲み込まれていく。


「ちっ・・・‼︎」


 其の様子を確認したが、手出しは出来ない俺。


(集中を切る訳にはいかない・・・‼︎)


 此の『螺閃コクレア』の闇の一閃は、当然俺自身にも効果があり、万が一、触れでもすれば、即此の身を斬り裂かれる事になる。


「わぁぁぁ‼︎」

「な、何だ⁈此れは・・・、あがぁぁぁ‼︎」

「っっっーーー‼︎」


 進行方向の大地が裂かれていて、撤退の遅れたアッテンテーター兵士達は、螺旋を刻む闇の一閃に巻き込まれ、腕や足、首に胴体と、其の身を人形の様に斬り裂かれていった。


(集中だ・・・‼︎後、少しで・・・)


 足を裂かれた事で、逃げる事が出来なくなった魔導巨兵。


「みんな、どうしたの?」

「ママと先に帰ったの?」


 発光の部位を一部失った事で、魔導巨兵は声の数が減っている。


「あたしも帰る・・・。・・・」

「あ〜ん、あたしもっ」


 また、一つの発光部が失われ、声が消えていった。


(ただ、さっき迄の悲鳴ってよりは、穏やかに逝ってる感じか・・・?)


 罠の可能性もある為、集中は切らさなかった俺だが・・・。


「何で⁈あたしだけ一人はやだぁぁぁ‼︎」

「・・・っ⁈」


 発光部が失われ、徐々に動きが失われていた魔導巨兵が、突如として、無数の爪を俺へと伸ばして来る。


「やっぱり・・・、罠か‼︎」


 多くの爪は近寄る以前に、闇の一閃に斬り落とされていったが・・・。


「やだぁぁぁーーー‼︎」


 たった一本の爪が俺迄辿り着き、足に絡み付く。


「ちっ・・・‼︎」

「あれ?ママじゃな・・・」


 消え入る様に声が失われると、足に絡み付いていた爪が解けたが・・・、其の刹那。


「な・・・⁈」


 右肩に闇の一閃が襲い掛かり・・・。


「っっっ・・・、あああぁぁぁーーー‼︎」


 肩から先が全て、恐ろしい程に美しく斬り落とされ・・・。


「ぁぁぁ・・・」


 墜ちていく腕を視線で追うと、地上では魔導巨兵が発光部を全て失い、再び完全停止していたのだった。

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