第397話
「駄目に決まっておろう」
「やっぱりかぁ・・・」
「くくく、当然だ」
此処はリアタフテ領にある、ラプラスを主とするダンジョン。
俺は王都での謁見を済ませ、直ぐに飛んで来たのだった。
「はぁ〜・・・」
「何だ?疲労困憊といった様子だな?」
「あぁ、文字通り飛んで来たからなぁ・・・」
「くくく、軟弱者めが」
「・・・」
先日のザストゥイチ島から王都とディシプルへ軍人達を送った事で、転移の護符を大量に消費したので、節約の為に王都からは飛んで帰って来たのだった。
「ピイィ?」
「あぁ、お前を預かるの断られたんだよ」
「ピーピッ」
「あぁ、ケチだよなぁ?」
「ピッ‼︎」
「くくく、貴様に一度確認しておかなければならぬが、先日の娘の件といい、此処を保育所か何かと勘違いしておらんか?」
「な〜?」
「ピー」
「・・・」
俺と子龍のやりとりに、珍しく無言になったラプラス。
「そんなに処置に困るなら、始末すれば良かろう?」
「・・・」
「アゴーニとリョートの子であれば、其の魔石は中々の物であるだろうしな」
「・・・」
当然といえば当然、然し、かなり物騒な発想で口にするのを躊躇われる事、あっさりと告げて来たラプラス。
「ピィ?」
「ん?大丈夫だよ・・・」
「ピィ‼︎」
「くくく、何だ。情に絆されたか?」
「・・・あぁ、そうかもな」
「くくく」
答えは分かっていたのだろう。
可笑しそうに笑うだけで、行動に対しての否定はして来ないラプラス。
(仕方無いだろう・・・)
そう自分に言い訳してしまうのは、子龍が無条件で俺を信頼し、純粋な瞳で見つめて来る為だった。
(ラプラスだって親なのだから、分かっているのだろう)
子龍の俺に対する態度を見ていると、頭に過ぎるのは3人の子供達の事で、騙されているのかもと思いつつも、此奴を手に掛ける事は出来なかった。
「もし、アゴーニとリョートが復活して、此奴を取り戻しに来る事は・・・?」
「まあ、無いとは言えんだろう」
「・・・」
「くくく、ただ奴等とて己が宿命は理解しおろう。其れを果たす為に、余計な危険を冒す可能性は低いだろうがな」
「宿命って?」
「境界線の守人との闘いだ」
「・・・」
日頃悠然と構えているラプラスの、真面目で何処か余裕の無い表情。
「ピィピッピー」
「・・・」
「くくく、まあ奴等ごとき必要無いがな」
「・・・そうか」
心配する様に、そして元気付ける様に鳴き声を上げた子龍に、ラプラスは表情を緩め、自信に満ちた表情で告げて来たのだった。
(まぁ、現実問題アゴーニとリョートより、ラプラスが互角というグロームの方が上だと思うが)
「其奴は家で飼えば良かろう?」
「いやぁ、一応俺も婿の身だしなぁ・・・」
「くくく、情けの無い話だな」
「ピッ‼︎」
ラプラスの揶揄う様な言葉に、子龍は呼応する様に、短く高音の非難する様な鳴き声を上げた。
「仕方ないだろう。此奴が居る事でどんな危険が有るか分からないし、つい最近も此の領は狙われているのだし」
「それなら、貴様の家で飼えば良かろう」
「それは・・・」
ラプラスの告げて来た今度の家は、ディシプルに構えた真田家隠れ家の事。
此方は俺が頼めば、アンジュは了承してくれるだろうが・・・。
「あまり、優しさに甘えてばかりなのもなぁ・・・」
「くくく、今更であろう」
「ぐっ・・・」
「くくく、そうしておけ」
「・・・」
「それを捨て置き、邪な存在に奪われた方が問題だ」
「捨てるって選択肢は無いんだけどな・・・」
この子龍については、俺に預けられたという事は、要は暴走すれば始末をし、出来る事なら手懐けろという国王からの指令に他ならないのだ。
「まぁ、それしか無いかなぁ」
「くくく、当然だ」
「・・・」
(出来ればお前に押し付けたかったんだがな・・・)
心の中でそんな悪態を吐いたのだった。
「そういえば、ラプラス」
「何だ?」
「イニティウム砂漠って、知ってるか?」
「イニティウム?砂漠?何だ、其れは?」
決して惚けた風は無く、本当に初耳の内容といった様子のラプラス。
「別名始まりの大地って、言われてるらしいんだけど」
「始まりの大地?くくく、随分と大仰な二つ名だな」
「位置的には終末の大峡谷の南らしいんだがな」
「・・・」
急に、何か記憶を辿る様に、黙り込んでしまったラプラス
「ラプラス?」
「其れで」
「え?」
「其処には何が有るのだ?」
「有るっていうか、其処にヴァダーが居るらしいんだ」
「ヴァダー?・・・ほお」
「何か思い当たる節が無いか?」
「くく・・・、くくく、なるほど・・・、な」
俺を置いてきぼりにし、1人納得した様な笑みを浮かべたラプラス。
「ラプラス?」
「何となく状況は理解出来た」
「え?じゃあ・・・」
「だが、必要あるまい」
「必要無いって・・・」
「貴様は次の標的にヴァダーを選んだのであろう?」
「まぁな、でも・・・」
「其れならば、自分の目と耳で確かめに行け」
「・・・」
突き放す様な、だが決して不機嫌な感情は感じられないラプラス。
こうなった此奴は、何も答える事が無いのは理解出来ていたので、俺は諦めてその場を後にしたのだった。
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