第374話
「フォールよ、彼が・・・?」
「はっ、陛下。真田殿でございます」
「そうか。真田殿・・・ゴホッ、ゴホッ」
「リヴァル様。ご無理はなさらず」
「うむ・・・、すまない」
王都で国王への報告を終えた俺は、ディシプル城へとやって来ていた。
「やはり、出直しましょう」
「すまん真田殿、陛下の性格なのだ。受けた恩に報いるのを先には出来ない方なのだよ」
「ふっふっ、言われておるな」
「はっ、陛下」
王都を出た後、ディア、ルチル、アナスタシアを送り届け、ディシプルの真田家に任務の成功を伝えに顔を出すと、フォールからの使者が来たとの報告を受け此処に来ていた。
「すぐに落ち着くだろう。少し喉が渇いた、水を頼もう」
「酒で無くて良いのですか?」
「ふっ、それは月が出る迄待とう」
「はっ」
フォールはリヴァルと軽口を交わしながらも、衛兵へと水を持って来させた。
「・・・ふぅ〜、美味いな」
リヴァルはナミョークの魔法が完全に解けた事で、喉の不快感を正確に示せる様になり、浄瓶の水を全て飲み干し、人心地ついた様子だった。
「だが、不思議なものだな」
「え、え〜と・・・?」
「あの小人族の娘に魔法を喰らって以降、真田殿から引き戻して貰う迄、思い通りにならない身体と思考に悩まされていたのだ」
「はい」
リヴァルの言葉は、やはり以前ディシプルで俺を操り、ローズを殺させ様としたのが、ナミョークであると理解出来たのだった。
「既に年老いた身。僅かな意識を頼りに、自ら命を断とうとも考えていたのだがな」
「陛下っ」
「ふっ。だが、其れをするは、昔足を失ったお主を、今世に踏み止まらせた自身の教えに反するからな」
「・・・っ」
「ふっ」
リヴァルの言葉に詰め寄り掛けたフォール。
其れを止めたのも、またリヴァルの言葉なのだった。
「だが、待ってみるものだ。こうして、また海風を感じれるとはな」
「魔法が完全に解けた時は、どんな感じだったでしょうか?」
「うむ。最初真田殿に引き戻して貰った時は、落ち着いた微睡みの中にいる感じが続いていたが、魔法が完全に解けた時は、顔に冷水を浴びた様なスッキリとした感じだったな」
「なるほど」
リヴァルの説明だと、俺の魔法によりナミョークの魔法が解除された期間があった為、現在この様にはっきりとした意識を持っているのかもしれない。
反対に飛龍達は、急にナミョークの魔法から解放された事で、感覚的には突然叩き起こされた様な感覚で、狂った様に暴れたのかもしれなかった。
(そうなると、確認出来ているところでは、操られていた狐の獣人達はどうなったのだろう?)
彼等も混乱はしているだろうが、側にはエルマーナが居る可能性が高い。
(そうなるとエルマーナに従うのか、其れとも・・・)
何方にせよ九尾達を生み出す為、自身の意思に反して生産の為の生殖行為を強要される訳で、何処かで造反する事は間違い無いと思うが・・・。
(被害に遭ってる者には悪いが、そうなってくれれば、此方も敵の根城なりを掴める可能性が出て来るからな)
「それで、真田殿」
「はい、何でしょう?」
「フォールから話を聞いたが、神龍を探し求めているらしいな」
「あっ・・・、はい」
以前フォールから、リヴァルより白夜を貰った時に、神龍の事を聞いたという話。
「リヴァル様の知る神龍とは?」
「うむ、水の神龍ヴァダーの事だ」
「ヴァダー・・・」
「うむ。正確にはヴァダーと思われる存在とだがな」
「それは?」
「うむ、実はな・・・」
遠い昔を思い出す様に、遠くを見つめながら話し出したリヴァル。
実際にリヴァルが教えてくれた情報は、数十年前のもので、彼がまだ青年と呼べる時代の話だった。
その昔、先代ディシプル王の三男だったリヴァルは、王位継承権では第3位に当たり、長男次男共に国王の資質に問題の無かった為、王になる事は殆ど想定しておらず、彼は諸国を旅し剣の修行に明け暮れていた。
ある時過酷な砂漠の大地へと修行に行き、行き倒れになりそうになったところ、奇跡的発見出来た砂漠のオアシス。
其処にあった澄み切った輝く水の湧き出る泉。
九死に一生を得たリヴァルは、泉を枯らさんばかりの勢いで水を飲んでいたリヴァル。
すると・・・。
「穏やかな邂逅だったな」
「穏やか・・・、ですか?」
「うむ。儂も当時は血の気の多い若造だったが、何方が上か瞬時に理解させられたのだ」
「・・・」
「頭部だけを泉より覗かせ、其の双眸で此方を観察している様子だったのだ」
「観察・・・」
「うむ。穏やかなものながら、此方に害意有れば即終わらせる。其の意志を感じさせる瞳だった」
「・・・」
リヴァルの言葉に俺が思い出したのは、グロームとの出会いだった。
あの時奴が俺に向けたのも、そういう別次元からのものだった。
(ただ、リヴァルが操られて居て、此方に限定条件が有ったとはいえ、全盛期とはいえない現在で俺とリヴァルの力の差は・・・)
空を飛べるというアドバンテージが無ければ、かなり危なかった飛龍の巣での闘いを思い出し、俺はヴァダーの力を推測していた。
「それで、砂漠の大地とは何処に有るのですか?」
「そうか、真田殿は異世界より」
「え?」
「真田殿。陛下の仰っている砂漠の大地とは『イニティウム砂漠』の事だ」
「イニティウム砂漠ですか・・・」
リヴァルの言葉に最初違和感を感じた俺だったが、フォールがその砂漠を知っていたという事は、此方の世界の人間には常識という感覚なんだろう。
「別名でも有名な砂漠の大陸なのだ」
「別名ですか?」
「ああ。『始まりの大地』とも呼ばれている」
「え〜と?」
「うむ。有史以前、人族が最初に興した国が有ったと言われている」
「其の国は・・・?」
「一説には既に砂漠に飲み込まれていると・・・」
「・・・」
「まあ、眉唾のお伽話だがな」
フォールは笑い飛ばす様な口調でお伽話と言ったが、何故か気になった俺は、ラプラスにでも確認する事に決めたのだった。
「だが、すまんが儂も正確なオアシスの場所は覚えていないのだ」
「いえ。大陸だけでも分かって助かりました」
謝罪をして来たリヴァルだったが、状況や時の流れを考えれば当然の事だろう。
「ただ、イニティウム砂漠に渡るのは難しいと思うな」
「え?フォール将軍?」
「イニティウム砂漠はサンクテュエールから遥か南、航海にはアッテンテーター帝国の領海と、ヴィエーラ教の管轄海域を航行する必要があるのだ」
「・・・っ」
「どういう事だ、フォールよ?」
「はっ、陛下。実は・・・」
今日完全に意識が戻ったばかりのリヴァルには、現在の大陸の事情が分からない為、フォールは説明を始めたのだった。
(やはり、次の狙いはリョートとアゴーニかぁ・・・)
俺はフォールとリヴァルの会話を聞きながら、そう心に決めたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます