第373話


「ふ、ふんっ‼︎こんなチビに、何が出来るってんだいっ‼︎」

「むっ、失礼だな?君だってそんなに高く無いのに」

「うるさいっ‼︎」


 ナミョークは想定してなかったルチルの登場に一瞬固まっていたが、ルチルの上背と身体つきを見て、急に強気になった。


(まぁ、一見するとルチルは小柄な少女だがな・・・)


 ナミョークの正確な実力は分からなかったが、俺に詰められそうになって即助けを呼んだ態度から、直接的な戦闘能力は高くは無いだろう。


(同情するよ、ナミョーク)


 俺はナヴァルーニイと飛龍達に、ルチルの仕事を邪魔させない様にし、そんな事を思った。


「さて、行くよ?」

「ふんっ、舐めんじゃないよっ‼︎」


 短剣を右手に手にし、ルチルへと構えたナミョーク。


「はあっ‼︎」

「・・・っ‼︎」


 ルチルは其れ右脚を退き、左肩をナミョークの右腕の下に潜り込ませながら流し・・・。


「な・・・⁈」

「はあぁぁぁ‼︎」


 ナミョークの右腕を掴み、自身の左肩に背負い、ナミョークの小柄な身体を、肩口から地面へと叩きつけた。


「っっっ‼︎」


 首から肩を強打した為、悲鳴を上げる事も叶わないナミョーク。

 ただ、口からは鮮やかな赤色の吐血が覗いていた。


「さあ、まだまだだよ?」

「・・・っ」


 首を打った為、全身が痺れているのだろう。

 ナミョークは目尻一杯に涙を溜め、その表情で許しを乞うた。


「駄目だよ?」

「・・・⁈」

「だって君は、僕の大事な友達の子供を奪おうとしたんだよ?そんなの許される訳が無いじゃない?」

「・・・っっっ」


 ルチルはその幼さの残る相貌に似つかわしくない、冷たい双眸でナミョークに告げたのだった。


「じゃあ、そろそろ・・・」

「ぅぅ・・・」


 ナミョークの右腕を掴んだままでいたルチル。

 腕を固めナミョークを引き起こし・・・。


「これで・・・、終わりさっ‼︎」

「・・・っ⁈」


 その逆上がりの要領で回転しながら、左腕でナミョークの首を固め、後頭部を地面に叩きつけたのだった。


「・・・」


 運命を意味するスペイン語の技。

 其れを喰らったナミョークは、糸の切れた操り人形の様に動かなくなり・・・、其の刹那。


「ギャアァァァ‼︎」

「アオオオーーーン‼︎」

「・・・っ⁈どうしたんだ⁈」


 突如として咆哮を上げ、気でも狂ったかの様に翼をはためかせる飛龍達。


「司様っ」

「アナスタシア、少し様子を見てくれ‼︎」

「は、はいっ」


 凶暴になった様にも見える飛龍達だったが、先程迄は明らかに俺達を狙っていたのに、今は暴れて威嚇こそして来るが、此方に攻撃する素振りは見せていなかった。


「カアァァァ‼︎」

「ギュウゥゥゥ‼︎」


 遠吠えでもする様に鳴き声を上げながら、森林から飛び去って行った飛龍達。


(ナミョークを仕留めたから、魔法が解けたのか・・・?)


 ナミョークの生死は確認出来ていないが、他に理由は考えられなかった。


「司」

「あぁ、ルチル」


 俺へと呼び掛けて来たルチルは、俺が応えると頷きナヴァルーニイへと視線を移した。


「どう・・・、っ⁈」

「時間稼ぎにはなった様だな」

「待・・・」

「待てと言われて待つ馬鹿は居るまい?」


 ナヴァルーニイは俺達がナミョークに集中している間に、アナスタシアによって倒されたグネーフの元へと移動していたのだった。


「此奴は良いのか?」

「必要無い」

「此奴の魔法は・・・」

「別に、構わん」


 短く言い放ち転移の護符を取り出したナヴァルーニイ。

 其れ以上何も言わず、転移の護符を使用し去って行ったのだった。


「終わったの?」

「あ、あぁ・・・」

「そっか〜、何だか暴れ足りないな〜」

「ん、そうか・・・」


 俺はルチルに応えながらも、ナミョークへと近づいた。


「どう?」

「あぁ、見事なもんだな」

「まあね」


 外傷は殆ど無いが、完全に逝っている事は理解出来た。


「どうするの?」

「このままにはして置けないし、早く王都に移送しよう」

「そうだね」


 俺は飛龍達の様子も調査したかったが、早急にナミョークの処理をしないといけない為、王都へと向かったのだった。

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