第371話


「ふふ、どうオニーサン?」

「・・・」

「今回はこの間みたいに、助けは来ないでしょ?」

「さてな?」


 ナミョークの言う助けとはヴェーチルの事だろうが、今日は凪は居ないので来ないだろう。


(まぁ・・・、飛龍だけなら・・・)


 俺の頭上で威嚇する様に翼をはためかせる飛龍達。

 敵の戦力を確認しようと空を見ると、数えるのが嫌になる位の飛龍達に包囲されていた。


「オニーサンがいけないんだよ?」

「・・・」

「こんな所に1人で来て、アタシの事も見逃してくれないし」

「おい」

「何?今更許して欲しいって言っても遅いよ?」

「はぁ〜・・・」

「ふふふ」


 俺が漏らした溜息を後悔のものと勘違いしたのか、ナミョークは得意げな笑みを浮かべた。


「勘違いするな?俺は赦しを乞おうとしてる訳じゃない」

「ふ〜ん」

「俺はお前を始末しに来たんだ。つまらない冗談を聞きに来た訳じゃない。分かったら其の口を閉じて、其の首をさっさと差し出せ?」

「・・・」

「既に陛下からの許可も得ている。お前から得られる情報よりも、お前を始末して操られている多くの者達を解放する方が、益があるという判断だ」

「ふんっ、ホント〜に可愛くないねっ‼︎」

「そんなものが辞世の句で良いのか?」

「・・・許さないっ‼︎」

「そう・・・、かいっ‼︎」


 飛龍達がナミョークから魔法の指示を受けたのか、俺へと一斉に襲い掛かって来た・・・、刹那。


「闇の支配者よりの殲滅の黙示録・・・、門ッ‼︎」


 俺は其の飛龍の影へと飛び込み・・・。


「・・・っ‼︎」

「チッ、外し・・・」


 表の世界へと闇の翼を広げ飛び出ると、ナミョークは短剣を自身の背後の影に突き立てていた。


(残念だけど、殺気位は読めるか実験済みだよ・・・)


 俺が飛び出たのは、ナミョークの頭上に居た飛龍の影。

 ナミョークとの距離は5メートル程に離れたが、奴の体勢を崩した事を考えると、マイナスは少ない。


「剣ッ‼︎」

「ぐっ・・・‼︎」

「ほぉ・・・」


 俺の放った闇の剣を、短剣を持つ手の方に側転し躱したナミョーク。

 其の身軽さはサーカス仕込みか、小柄な種族特有のものなのか?


(まぁ、良いさ・・・)


 俺は自身の背後に闇の剣を浮遊させ、ナミョークとの距離を詰めた。


「助けな・・・、『グネーフ』ッ‼︎」

「・・・っ」


 グネーフ、ナミョークが自身の視線の先に呼び掛けた・・・、次の瞬間。


「ちっ・・・、うるさい豆粒が・・・」

「・・・お⁈」


 木々が激しく騒めき、長く太い影が差して来た。

 其れはまるで突如として、巨木が生えた様だったが、現れたのは・・・。


「巨人族っ⁈」

「む・・・」


 俺の知る巨人族は終末の大峡谷に居るジェアンのみだったが、現れた巨人は其のジェアンよりも頭2、3個分上背があった。


「此のガキが・・・、なっ」

「大楯ッ‼︎」


 空から降って来た隕石を思わせる右拳を、漆黒の楯で防いだが・・・。


「小癪なガキだ・・・、なっ」

「ちっ‼︎」


 グネーフは続け様に、左拳をアッパー気味に俺へと放って来たが、間一髪のところで其れを躱す。


「ぐっ・・・‼︎」


 拳の風圧に吹き飛ばされそうになり、闇の翼へと魔力を込めて、何とか体勢を保つ。


「おおっ・・・、と」

「・・・っ」


 勢い余って体勢を崩したグネーフ。

 その振動で木々が激しく揺れ、飛龍達が騒めいた。


「ちゃんと狙いなっ、グネーフッ‼︎」

「豆粒なぞに命令される覚えは無い」

「ちっ、アンタも操るよっ?」

「ふんぬっ」


 不穏な発言をするナミョークに、グネーフは苛ついた様子を見せながらも、体勢を立て直す。


「行くぞ・・・」


 俺へと狙いを定め、拳を振り上げるグネーフ。


「・・・『ウォコ』ッ‼︎」


 俺がグネーフに背を見せ詠唱した・・・、瞬間。


「遅すぎるぞ?」

「司様っ‼︎」


 俺の影から飛び出したディアとアナスタシア。


「頼むぞ、2人共‼︎」

「ふんっ、羽トカゲは撃ち落としてやろう」

「私はあの巨人を・・・」


 俺からの鼓舞を受け、ディアは飛龍達に火花を放ち、炎の蔦を絡ませて墜としていった。


「邪魔する・・・、な」

「其方が‼︎」


 俺へと振り下ろされた拳を、アナスタシアは大剣で撃ち返す。


「ぬぬ・・・」

「ぐっ‼︎」


 まるで鋼と鋼が撃ち合った様な、鈍い轟音が森林に響き渡る。


(大剣の刃を受けても血を流さないとは、文字通り鋼の肉体という訳か・・・)


「はあぁぁぁ‼︎」


 拳を撃ち返す事には成功したが、此のままでは勝てないと判断したのか、アナスタシアは力を解放する為、其の額に角を生やした。


「鬼・・・、か?」


 アナスタシアの変化に、グネーフも腰を捻りながら拳を振り上げる。


「ふふふ、力を貸してやろうか?」

「・・・必要ありません」

「遠慮するでないっ‼︎」


 ディアは血縫いの槍を構え一閃。


「ふんぬ」


 然し、グネーフの鋼の肉体には槍の刃も通らず、逆に・・・。


「邪魔を・・・するな」

「・・・っ⁈」


 巨木並みの拳によるアッパーを受け、樹木に打ち付けたれたディア。

 衝撃に樹木から葉が舞い散り、其れに混じる様に・・・。


「・・・」


 ディアも其の身体が木の葉に変わり、散っていった。


「ふんが⁈」


 突然の事に面を食らってしまったグネーフ。


「ふふふ、此処じゃ?」

「狐の術・・・、か?」

「さてな・・・?隙は作ったぞ、駄犬よ?」


 言葉通り拳を振り上げた事で、ガラ空きになったグネーフのボディ。


「余計なお世話ですが・・・」

「ふふふ、良きに計らえ?」

「行きます・・・」

「・・・っ⁈」

 

 グネーフの腹部へと大剣を撃ち付けたアナスタシア。


「破あぁぁぁーーー‼︎」

「ふぬぬぬーーー⁈」


 アナスタシアの獣の本能の様な咆哮に呼応し、グネーフの腹部に撃ち付けた大剣から大爆発が生じ、其の巨木の様な巨体が森林の木々を打ち倒しながら吹き飛んだのだった。


「・・・」

「司様っ‼︎」

「あぁ、任せろ‼︎」


 俺は自身の背に飛んで来た、アナスタシアからの鼓舞に応える様に、闇の翼に魔力を込めたのだった。

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