第357話


「凪が・・・」

「ああ、そうなのだ」

「・・・」

「ローズ?」

「え、ええ、そうみたいなの」


 俺とグランの会話を一歩引いて聞いていたローズ。

 少し思い悩む表情が気になり声を掛けると、吃りながら応えて来た。


「凪は・・・?」

「・・・」

「ローズ、凪は?」


 俺は屋敷に戻って一度も当の凪に会えていなかったので、現在の状況を聞こうと問い掛けたが、ローズが口を噤んだので、身を乗り出す様にして再び問い掛けると・・・。


「ごめんなさいっ、司‼︎」


 ローズは苦悶の表情を浮かべ、急に俺に謝って来た。


「お、おい、皆んな無事だって・・・」


 俺は屋敷の人間は皆無事だと思っていたので、突如として湧いて来た不安に分かりやすく動揺していた。


「違うの、司」

「違うって?」

「凪は勿論、無事よ」

「え、無事?・・・でも」

「無事なのだけど・・・」


 凪は無事だと言うローズだったが、其の表情の曇りが晴れる事は無いローズ。

 何より其の言葉もはっきりしないものだった。


「すまないな、司君」

「グラン様?」


 はっきりとした答えをくれないローズに、俺が少し困っていると、今度はグランが謝って来たのだった。


「凪については、現在屋敷の地下で簡易的だが、隔離している」

「え・・・?何故?」

「凪の状態、そして司君不在も有り、不測の事態に備えて、私が其れを進言したのだ」

「凪の・・・、状態ですか?」

「ああ、説明するより会ってくれれば、分かると思う」

「え、えぇ・・・」


 凪の状態というのが気掛かりだったが、無事で屋敷に居るのならとにかく其れで良い。

 俺はグランが何故、凪を隔離したのか、其れを確認する為、そして何より愛する我が子に会う為、屋敷の地下へと向かう事にした。


「・・・ご主人様っ‼︎」

「アン」


 地下へと降りると、俺が召喚された時にも使われた、地下室の中でも1番広く堅牢な造りの部屋の扉の前に座り込んだアンが居たのだった。


「ううう・・・」

「どうしたんだっ⁈」


 落ち込んだ様子で俺の胸へと飛び込んで来たアンだったが・・・。


「・・・っ、ふしゃー‼︎」

「お、おい・・・」


 俺と共に来たローズとグランを確認すると、2人に対して威嚇する様に歯を見せたアン。

 俺は訳も分からず、其の小さな身体を押さえたのだった。


「アンは私達の凪に対する処置に不満なのよ」

「当然にゃっ‼︎凪様は何も悪い事なんてしないにゃっ‼︎」

「アン・・・。そんな事は私だって分かっているわよ?」

「それなら、何で凪様を閉じ込めるにゃ‼︎」

「それは・・・」

「ふしゃー‼︎」

「・・・」


 どうやらアンは、凪が此の部屋に閉じ込められている事が不満らしいが・・・。


(理由が分からない事には、ローズやグランの判断が正しいとも、アンの怒りが正しいとも言えないが・・・)


「落ち着いてくれ、アン?」

「ご主人様・・・」

「アンが凪の事を心配してくれてるのは分かっているし、俺も有難いが、ローズやグラン様だって同じ様に、凪の事が心配なんだよ」

「それは・・・」

「な?」

「ううう、すいませんにゃ」

「ううん、私の力不足が理由なのだし、アンが謝る必要は無いわ」

「ローズ様・・・」


 俺からの説得に、アンは落ち着きを取り戻し、ローズへと謝罪をしたのだった。


(まぁ、閉じ込められたといっても、1日も経っていないのだし、アンも俺が戻った事で安堵から溜めたものを吐き出しただけだろう)


 ただ、此処でもローズの力不足という言葉に、若干の違和感があった。


(まぁ、すぐに理由は分かる・・・)


 俺はそう自身に言い聞かせ、屋敷の中で一番重い扉に手を掛けたのだった。

 扉を開けた先・・・。


「あっ、パパだ〜‼︎」

「凪・・・」


 薄暗い部屋に1人で居たらしい凪は、俺に気付くと駆けて来て足へと抱きついて来た。


「り〜‼︎」

「あぁ、ただい・・・、っ⁈」


 俺に出迎えの挨拶をしてくれた凪。

 其の双眸は薄暗い部屋の中で、金色の輝きを放っていたのだった。

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