第346話
「ブラートさんっ」
「ああ」
「此れを」
俺はアイテムポーチから転移の護符を取り出し、ブラートへと放った。
「司、どうした?」
「此奴が居ると無茶をしないといけないんで、もしもの時はお願いします」
「ほお、其れ程か・・・」
「ええ」
一度遣り合えば、其の魔法から違和感を感じるのは間違い無い為、反応を見るにブラートは仮面の男を初めて見るらしかった。
「ふふふ、随分と信用されているのですね?」
「・・・ああ、有り難い事にな?」
「良いのですか?」
「お前に心配される必要は無い」
「ふふふ、非道い方だ」
心理戦のつもりか、俺とブラートの信頼関係に付け入ろうとして来た男。
だが俺は、其の不快な声色への反感から、余計にブラートへの信頼を増したのだった。
「私は信用してませんが」
「ふっ、そうか」
「・・・」
すかさずツッコンで来るアナスタシアだったが、まぁバランスが取れて良いのかなと思う事にした。
「ですが良いのですか?」
「あぁ。屋敷は皆が守ってくれる」
「司様」
「信じよう、アナスタシア」
「・・・はいっ」
俺は此奴らの最強の戦力を正確には知らなかったが、現在判明している範囲では間違い無く此処に居る仮面の男だろう。
(飛龍の群れ程度なら屋敷の戦力に、バドー達が加わればほぼ問題無いだろう)
そして、最悪の場合はケンイチと宮廷魔導団の精鋭も其処に加わるのだし、万全と言っても問題無かった。
「・・・」
「ふふふ、一応確認しますが・・・」
「断るっ」
「ふふふ、そうですか・・・。では・・・」
「叛逆者の証たる常闇の装束・・・、翼ッ‼︎」
マントの男に最後迄言わせず、俺は漆黒の装衣を纏い、闇の翼を広げて空へと翔けた。
「はあぁぁぁーーー‼︎」
「・・・む‼︎」
其れに呼応する様に、アナスタシアは敵の群れへと大剣による斬撃を、ブラートは雷の鞭を放った。
「ふふふ、慌ただしい方達だ」
襲い掛かる斬撃の衝撃波に、魔法のバリアを生み出し自身を守ったマントの男。
ただ、強力な一撃はかなりの賊を吹き飛ばしていた。
「こっちも行くぞ・・・」
仮面の男との距離を詰めながら、首元のネックレスに手を添えた俺は攻撃の間合いに入った・・・、刹那。
「はあぁぁぁ‼︎」
ネックレスを剣へと変化させ、斬撃を放った。
「・・・」
「・・・っ‼︎」
白夜で軽々と其れを受けた仮面の男。
(やはり、上空を取られている相手との撃ち合いは絶対的に不利だな)
「剣ッ‼︎」
「・・・」
俺が背後に2本の闇の剣を詠唱すると、仮面の男は同じ様に光の剣を詠唱したのだった。
「気が・・・、合うなっ‼︎」
「・・・」
宙を切り裂く闇の斬撃を、煌めく光が悠然と受け止める。
「無視・・・、かっ‼︎」
「・・・」
俺は得物を持つ右手に力を込め、白夜の刃を得物の鍔に当て目一杯押し返す。
「・・・っ‼︎」
「・・・」
「無理か・・・、衣ゥ‼︎」
「・・・っ」
仮面の男は、俺の空いた左手での魔法は想定していただろう。
然し、俺は其れはせずに、右手の得物をネックレスに戻し、突然の事に前傾にバランスを崩した仮面の男に、闇の衣を放った。
「・・・」
間一髪で首を振り、顔面へと襲い掛かった其れを躱した仮面の男だったが・・・。
「まだだっ‼︎」
「・・・っ⁈」
上空へと空を斬り、仮面の男の背後の宙を裂いていた闇の衣だったが、俺の咆哮に反応し仮面の男の襟足へと襲い掛かり・・・。
「⁈」
「ぐっ・・・、捕まえたぞ?」
「っっっーーー‼︎」
「暴れても、離さないぞ‼︎」
見事に仮面の男の首に、漆黒の大蛇の様に巻き付いたのだった。
「ぐぐぐーーー‼︎」
「っっっ‼︎」
「行くぞ・・・」
闇の翼に力を込め、空中でのバランスを取り、仮面の男のがら空きの腹を蹴り上げる。
「はっ‼︎」
「っ⁈」
「もういっ・・・」
俺は足を振り上げる素ぶりを見せながらも・・・。
「っ‼︎」
「⁈」
仮面の男を捕らえる闇の衣に魔力を注ぎ、自身へ引き寄せる。
(森羅慟哭で落として、地面に叩きつけてやる‼︎)
俺が空いた左手を仮面の男の頭部に寄せつつ、詠唱の準備に入った・・・、刹那。
「ぐがっ‼︎」
「・・・っ‼︎」
左肩を襲った鋭い激痛・・・。
視線移すと光輝く刃が見えていた。
(背後からやられたか・・・)
「ちっ、暗闇を駆る狩人‼︎」
「⁈」
俺は森羅慟哭の準備をしていた左手で、男の背へと闇の狼を詠唱し、低空へと男から距離を取った。
「っっっ⁈」
仮面の男の背で、其の鋭い漆黒の牙を立てた闇の狼。
踠き苦しむ男の頭を蹴り、俺の胸へと跳び込んで来た。
「・・・良くやったぞ?」
褒美の様に其の頬を撫でてやると、闇の狼は俺へと溶け込み、光の剣を突き刺された傷は急速に閉じ、やがて痛みは治まったのだった。
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