第338話


 新年、1月の末。

 俺とディアとブラート、そしてアナスタシアは、セーリオとの待ち合わせ場所であるリエース大森林跡へとやって来た。


「これは、ディア様」

「・・・いんないっ」

「・・・」


 セーリオからの恭しい挨拶にも、ディアは素気無い対応だったが、当の本人は特段気にした風ではなかった。


「お久し振りです、セーリオさん」

「・・・」

「貴方、無礼でしょう?」


 俺に対してはいつもと変わらないセーリオからの対応だったが、初対面のアナスタシアにはセーリオの態度が納得いかなかったのか、詰め寄る様に不満を示した。


「良いんだ、アナスタシア」

「然し、司様・・・」

「・・・」

「セーリオさん、準備の方は?」

「・・・すぐに出るぞ」

「・・・っ」

「はい、分かりました」


 そんなアナスタシアを抑え、セーリオへと出発の確認をした俺。

 その高圧的な答え方に再びアナスタシアの顔色に怒りが見えたが、俺は其れを遮る様にセーリオへと応えた。


(どうせ今回の件が終われば会う事も無いだろう。それならどんな態度でも構わないからな)


 これが以降も会う相手なら、流石にリアタフテ家の事も考えると、この態度を認める訳にはいかなかったが、俺はセーリオについて今後が無い相手と見ていたので、手早く仕事を済ませる事を優先したのだった。


「では・・・」

「・・・」


 セーリオの周囲に集まる俺達一行。

 相手に不審な動きがないか、集中を切らさずチェックする。


(ディアだけを攫われる訳にはいかないからな)


「・・・」

「なに?ちゅかさ?」

「いや・・・」

「そっ・・・」


 一応、ディアにも注意を払っていたが、其れに気が付いても特に気にした様子は無かった。


「・・・始めるぞ」

「はい」


 簡潔に開始だけを告げ、転移の護符を手にしたセーリオ。

 魔力を込めた瞳で其の手先を凝視したが、通常の魔力の流れしか見てとれなかった。


「・・・っ」


 光に包まれた俺達一行は、見えない何かに引かれる様な不思議な感覚に襲われ・・・、刹那。


「・・・ふぅ〜」


 其の感覚が治ると周囲の景色が、高い木々に囲まれる森林の中に変わっていた。


「此処が本国?」

「ちがう」

「え?ディア?」

「たぶん、ちかくのもり」

「当然だ。本国内に直接通ずる護符など有れば、危険な事この上ない」

「なるほど」


 確かに王都然り、ディシプルもそうだが、セットには許可を得ているからな・・・。


(此処はそんなに気にする必要は無いだろう)


「行くぞ」


 セーリオから掛かった声に、俺達はその後に続くのだった。

 その後1時間弱歩くと見えて来たのは・・・。


「え?あれが・・・?」

「そっ、『レイノ』」

「・・・」


 俺はミラーシを思い出し、ディアから其処が狐の獣人の本国と言われた事に絶句してしまった。


「ふっ、まるで人族の国だな?」

「ブラートさん・・・。はい」


 見えて来た狐の獣人達の本国、ディア曰く名はレイノというらしい。

 其処はサンクテュエール王都よりは小さそうだが、街並みや風に運ばれてくる賑やかな声は、王都の其れと変わらないものだった。


 セーリオの先導で関所を抜け街へと入った俺達。

 街を城に向かい歩いていると、此処の子供達が距離を取りつつも俺達一行を観察して来たのだった。


「・・・」

「どうした、司?」

「いえ、ミラーシを思い出しまして」

「そうか、今回はフォールは居ないがな」

「ですね」


 あの時はルーナとフレーシュ、フォールが同行していた。


(フォールは当然ディシプルの守り、ルーナはフェルトによる強化を受けている最中、フレーシュは卒業に向け最後の追い込みが有るからな)


 街の中には狐の獣人しか居ない様だが、今回一番珍しいのは俺なのだろう。

 子供達からは黒、くろ、クロと俺の容姿に関するものであろう単語が聞こえて来たのだった。

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