第335話
「くくく、何だ?」
「新年の挨拶だよ」
「あけましておめでとうございます、ラプラス様」
「お、おうっ。晴れ着はどうした?」
リアタフテ領の年明けの行事を終えたある日。
俺とアナスタシアは、ラプラスの根城とするダンジョンへと新年の挨拶へと来た。
「私はローズ様のメイドですので、過剰な装飾は・・・」
「そ、そうか・・・」
「・・・」
アナスタシアのいつも通りの淡々とした対応に、分かりやすく落ち込んだ表情を見せたラプラス。
(此奴って本当にアナスタシアに弱いよなぁ・・・)
初対面の時のパーティーメンバーに対する対応を見ると、決して女性に弱いタイプには感じられ無かったのだが・・・。
「此れ、土産だ」
「おおお・・・」
「・・・」
クロートとの打ち合わせに向かったアウレアイッラで仕入れて来た銘酒狂瀾。
一升瓶で30万オールという最上級の日本酒に、流石のラプラスも唸り声を上げていた。
「貴様、熱でも有るのか?」
「失礼な・・・」
「くくく、それなら貴様もやっと我の重要性に気付いたのだな」
「さぁな?」
「くくく、良きに計らえ」
「・・・」
痛く上機嫌な様子のラプラスだが、日頃の土産だってそれなりの物を持参しているのだが・・・。
若干、其処が気になった俺だったが、基本的に此処に来る時は此奴の知識を聞き出すのが目的なので、せっかく饒舌になってくれているなら指摘して機嫌を損ねる必要は無いだろうと思った。
「で?」
「え?何だ?」
「それは我の台詞だ。貴様が用も無く土産など持参出来る筈がなかろう?」
「・・・」
ラプラスの台詞に流石にツッコんでやろうかと思ったが、以前の様な長旅では無いとはいえ、また暫くの間、子供達と離れ離れにならないといけないのだし、手早く済ませる事にした。
「くくく、で?何だ?」
「あぁ、実は狐の獣人のとノイスデーテの事なんだが・・・」
「ほお?」
俺が知りたかったのは狐の獣人の戦闘に関する弱点的なものと、獣人であるノイスデーテに何故、神から人族に与えられた魔法が伝承しているかという事だった。
「弱点・・・、な」
「あぁ、何か無いか?」
「無いな」
「・・・っ」
「くくく。奴等は獣人の中でも彼のエルフ族並の魔力を持ち、身体能力では獣人の其れだからな」
「そうかぁ」
「其れにいざとなれば、焦土戦術も厭わん気概も一族全員が持っているからな」
「・・・」
一応ディアにもこの質問はしていたが、当然の様にまともな答えは得られなかった為、ラプラスに聞いてみたのだが・・・。
(まぁ、此方は其処迄期待してなかったからな)
俺は今回の本命であったノイスデーテの件をラプラスへと問い掛けたのだった。
「・・・」
「だって変じゃ無いか、獣人なんだぞ?」
「其処迄は何処で調べて来た?」
「え〜と、神から与えられたってところか?」
「そうだ」
「リアタフテ家の先先代様からだけど・・・」
「そうか・・・」
「・・・」
「・・・」
何か考え込む様に、眉間に刻まれた皺を深くしたラプラス。
俺は珍しく真面目な雰囲気のラプラスに、静寂の中で次の言葉を待った。
「・・・くく」
「え?ラプラス?」
「くくく、リアタフテのな」
「・・・?」
「ラプラス様、如何されたのですか?」
「いや、人族の癖に、律儀に伝承を行なっている事に可笑しくなったのだ」
静寂から一転。
突如として機嫌良さそうに笑いだしたラプラスに、心配する様に声を掛けたアナスタシア。
だが、ラプラスからの答えはイマイチ要領を得ないものだった。
(人族の癖にと言うわりには、嘲りは感じられ無いが・・・)
其の様子は不思議と喜びを感じるものだった。
「初代は旅先毎に女を持つ放蕩者だったがな」
「・・・え?」
「くくく」
「い、いや、待てよ⁈」
「何だ?くくく」
「初代って、ラプラスは初代リアタフテに会った事あるのか⁈」
「不思議はあるまい?」
「そ、それは・・・」
ラプラスの口から告げられた新事実。
ラプラスは何でもないという様子だったが、生きた時代を考えると確かにその発言や態度は理解出来るのだが・・・。
(此奴・・・、其れは全てを話しているとは思って無かったが・・・)
こんな風に突如として新事実を告げられると、此奴が俺からの質問に良く口にする答えんの一言。
其れはもしかして、知らないと答えた時の信憑性を持たせる為のものではないかと思えて来たのだった。
(此奴に知らない事なんて無いのでは・・・)
「うう〜・・・」
「・・・」
「何だ?」
「いや・・・」
「そうか?・・・ひっく」
こんな風にただ酒に酔っている様子も、態とらしく・・・。
「ささ、ラプラス様」
「お、おうっ。くくく・・・、ごくごく」
「どうですか?」
「うむ、中々の酒だ。何より酌が・・・、その・・・」
「はぁ?」
「ご、ごほんっ」
(いや、これはただの酔っ払いだな)
俺は余計な事に時間を取ってしまったが、本題に入る事にした。
「じゃあ、ラプラス?」
「何だ?」
「ラプラスはザックシールやもう1人の魔法を与えられ者。何より・・・」
「無論、初代ノイスデーテとも面識が有る」
「・・・っ」
「聖母と崇められている女だったぞ」
「・・・」
「くくく・・・、人族のな」
「・・・な?」
グランの話で既に答えは出ていたのだが、俺は改めて面識の有るラプラスに告げられた事で、より現状の謎が深まってしまったのだった。
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